研究実績の概要 |
2018年度は、当初の3年間の補助期間を1年延長して、(i) RKKYイジングスピングラス(Dy,Y)Ru2Si2の類似物質(Ho,Y)Ru2Si2における常磁性-Griffiths相転移を系の動的応答の変化すなわち動的相転移として高エネルギー分解能中性子非弾性散乱実験で捉えた、(ii) フラストレート磁性体ZnFe2O4におけるスピングラスコヒーレント長を測定し、そのスピングラス様磁性が相転移ではなくクロスオーバーとして現れること見出した。 研究期間全体(2015-2018年度)としては、長距離相互作用であるRKKY相互作用が働くイジングスピングラス(R,Y)Ru2Si2 (R = Dy,Tb,Gd), Dy(Ru,Co)2Si2について様々な実験を行い、そのスピングラス状態がスピングラスの平均場理論から導かれた「レプリカ対称性の破れた(RSB)」状態であるかどうかについて検証を行った。例えば、交流磁化率の動的スケーリング解析から、有限磁場中においても有限温度のスピングラス転移が存在することが確認されたが、これはRSBが起こっていることを強く示す結果である。また、スピングラス相における非平衡緩和現象(エイジング現象)を詳しく調べ、ある温度における安定状態が1つではなく複数あること(ドメインサイズや自由エネルギーの谷間のエネルギー障壁が複数あること)、それらは降温とともに階層的に現れていること、を示す結果が得られた。この結果はRSB状態の階層的多谷構造を反映したものであると考えられ、これらの結果から長距離相互作用イジングスピングラスは3次元系であっても平均場理論の予測するRSB状態が実現していることが分かった。
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