研究課題/領域番号 |
15K05213
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
大信田 丈志 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50294343)
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研究分担者 |
後藤 晋 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (40321616)
松本 剛 京都大学, 理学研究科, 助教 (20346076)
大槻 道夫 島根大学, 総合理工学研究科, 講師 (30456751)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ラグランジュ記述 / 変位相関テンソル / モード結合理論 / 揺動応答関係 / 乱流 / コロイド / 塑性流動 / 非平衡統計力学 |
研究実績の概要 |
流体力学の方法論にヒントを得た、ラグランジュ相関に基づく濃密コロイド系の統計理論の構築というアイディアの具体化と、それに基づく塑性流動および乱流の理論での新しい知見を目指し、今年度は5回のコラボセミナーを通じて理論的検討を行った。特にそのうち一回は研究会の形で実施した。 まず、コロイド系の統計理論に関して前年度中に構築した、2次元系の変位相関テンソルを解析的に計算する枠組みを用いて、その近似的解析解を求めるとともに、粒子系の数値計算による検証を進め、その解から読み取れる情報について検討した。 我々が求めた変位相関テンソルは空間的には渦対状の構造を持つ一方、時間的には負の長時間テイルを示すこと、さらに横相関の挙動には剪断弾性率の情報が含まれることが分かった。これらの結果は、濃密コロイド系に関する近年の数値的な知見を解析的に再現するものである。 この路線を素直に押し進めて剪断弾性率を求めようとすると、ラグランジュ的モード結合理論(L-MCT)の具体的実装が必要であるが、その検証方法が問題となる。いくつかのアイディアについて検討を重ねる過程で、条件を満たすラベル変数(Euler-Lagrange写像)を具体的に構成する例が有用であることに思い至り、2次元の点渦や準1次元のブラウン粒子系の解析を行った。さらに、L-MCTでは見かけのエイジングが避けがたいことを踏まえて、エイジングあり一列縦隊拡散における揺動応答関係の破れについて調べた。 さらに、Navier-Stokes乱流における揺動応答関係についても検討を進めた。 乱流のラグランジュ的な統計理論には、いくつかの変種が知られているが、そのなかでALHDIAと呼ばれるものに対応する形の速度相関について数値計算を行い、相関関数と応答関数の比例関係が破れていることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画としては、2次元L-MCTの定式化のあと、波数積分を含む数値計算プログラムの開発や、剪断を含めたコロイド系および乱流の解析に進むことを想定していた。しかし、波数なし近似による簡略版L-MCTが、既にかなりデリケートな扱いを要する問題となることが判明したため、その挙動を慎重に検証することが先決であるものと判断し、より本格的なL-MCTの実装は先送りにして、まずは簡略版L-MCTの結果を検証する方法の確立に集中するように計画を変更した。 いくつかの検証方法を検討したが、Dean-Kawasaki方程式の直接計算は当初の予想ほど扱いやすくないことが分かり、また粒子系の数値計算に基づく変形勾配テンソルの計算も、安直な実装だと誤差が非常に大きくなることが分かった。現在、より工夫を重ねた検証方法を構築し、その実装を進めている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
上記のとおり、まずは2次元の簡略版L-MCTの予測する結果を慎重に検証する必要がある。そのために、一方では粒子系の数値計算に基づいて、変形勾配テンソルを十分な精度で計算する方法を確立し、他方ではL-MCTの解析的な計算および数値計算を進めることで、両者の結果を比較できるようにする。 併せて、粒子系の数値計算とL-MCTによる解析的計算の両面から扱いやすいような新たな統計量の構成を試みる。 このような統計量をうまく作ることができれば、検証の助けになるだけでなく、濃密コロイド系などのガラス系の解析に広く役立つことも期待できるので、その方面の専門家をセミナーに招いて助言を求め議論を深めるようにする。 こうして、粒子系データに基づく変形勾配テンソルの計算方法の確立や新たな統計量の計算に成功したら、当初の計画に戻り、塑性流体のレオロジーや乱流理論への展開を目指す。 その際、必ずしも剪断を外部から印加するという当初のアイディアにこだわらず、別のルートで新たな知見を得る可能性も含めて柔軟に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費の支出金額を精算した結果、大阪大学において、分担金13万円のうち10,700円(1割弱)の残余額を生じた。もともと旅費としてぎりぎりの金額を見積もって配分していたため、資金が途中で尽きることを恐れて安上がりな交通手段を選択する工夫を重ねたことが主な理由だと思われる。
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次年度使用額の使用計画 |
当該金額(10,700円)は、新年度におけるセミナー旅費の一部にあてるほか「今後の推進方策」に記したような数値計算に必要となる計算機周辺機器(ハードディスクなど)の購入にあてる。
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