研究課題/領域番号 |
15K05218
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
河原林 透 東邦大学, 理学部, 教授 (90251488)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | カイラル対称性 / 格子模型 / 電荷の分数化 |
研究実績の概要 |
28年度までに、格子模型といった離散的な空間上でも、一般化されたカイラル対称性が従来のカイラル対称性と同様に厳密に定義できること、また、そのような対称性を持つ模型がハミルトニアンの代数的な変形によって構築されることを示してきた。29年度においては、こうした変形がマルチバンドの系にも応用が可能で、カゴメ格子やLieb格子などのフラットバンドを持つ系に対しても適用できること、その際には高スピン表現が有用であることを示すことができた。一方、格子模型における一般化されたカイラル対称性の効果について、さらに研究を進め、2バンド模型の場合には、傾いたディラック電子系におけるフェルミオン・ダブリングが、この一般化されたカイラル対称性によってトポロジカルに守られることを示すことができた。これは、いわゆるニールセン・二宮の定理の傾いた2次元ディラック電子系への拡張となっている。 このような一般論のほか、28年度に引き続き、フェルミオン・ボルテックス系における電荷の分数化に対する一般化されたカイラル対称性の効果についても研究を進め、連続変形によってディラック・コーンを傾けた時、ボルテックスに付随する分数電荷をKernel Polynomial法によって大規模計算を行うことにより数値的に調べたところ、分数電荷が連続変形に対して一定の安定性を示すことがわかった。また、一般化されたカイラル対称性を厳密に満たす”拡張されたWilson-Dirac模型”のトポロジカルな性質についても数値的に研究を行い、エッジ状態の変化などを確認した。 さらに、フラットバンド系の研究の発展として、ベリー位相のようなトポロジカルな量によって、2次元カゴメ格子状の磁性体の量子状態を特徴付ける試みも行った。 こうした成果は、現在論文を国際会議(5件)や日本物理学会(2件)で発表しているが、今後速やかに論文としてまとめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般化されたカイラル対称性を格子模型へ拡張したことにより、フラットバンド系への拡張の一般論と高スピン表現の関係、フェルミオン・ダブリングの一般化されたカイラル対称性との関係などを明らかにすることができた。後者は、現実の傾いたディラック電子系で観測されているダブリングの安定性と関係している可能性がある。また、格子模型で定義できたことにより、数値計算で厳密に取り扱えることから、変形されたWilson-Dirac模型などにおけるゼロモードの安定性の検証などが可能となった。また、これまでの一般論の構築では、空間的に一様な変形のみを考えてきたが、空間的に非一様な変形への拡張という、さらなる一般化への可能性も視野に入り、さらなる発展が期待できるため。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果を論文にまとめるとともに、”一般化されたカイラル対称性”という概念を、空間的に非一様な代数的変形に拡張した時、どのような性質が帰結されるのか、実験との関連がどのようにつくのかを明らかにしていきたい。また、一般化されたカイラル対称性を厳密に満たす拡張されたWilson-Dirac模型のゼロモードの安定性や、フェルミオン・ボルテックス系における分数電荷の安定性についても、29年度に得られた結果に基づき、詳しく数値的な検証を行っていく予定である。また、冷却原始系やphotonic crystalにおいて実験可能であると思われる理論模型における新たなトポロジカル量子相の提案も行なっていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度は交付額が少ないため、国際会議等で研究成果を発表するための旅費や、発表のためのデータ解析用のパソコンなど、予算を有効に活用するために繰り越しを行った。
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