研究課題/領域番号 |
15K05220
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
水島 二郎 同志社大学, 理工学部, 教授 (70102027)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 流体 / 数理物理 / 計算物理 / 力学系 / 非線形物理 |
研究実績の概要 |
本研究計画の目的は層流から乱流への遷移と乱流維持機構を明らかにすることである。具体的には、柱状物体後流における振動流の発生、急拡大管路中での振動流の発生と維持、バスタブ流の発生と遷移などが具体例であり、これらの流れにおける振動や乱流の維持機構を明らかにすることである。 平成27年度は主にバスタブ渦の発生メカニズムと遷移および矩形容器中の2重拡散対流の発生と振動流への遷移について調べた。その結果、バスタブ渦の発生条件と振動流への遷移を明らかにしたが、論文にまとめるにあたって数値計算の精度を入念に調べた結果、計算精度が十分ではないと判断し、より正確に再計算を行うことにした。現在新しいプログラムを作成し、計算を行っている。矩形容器中のアルコールと水の2重拡散対流は線形では振動不安定性により発生するにもかかわらず、ほとんどの場合、やがて定常流へと遷移する。その物理的および数学的な理由を明らかにした。すなわち、2重拡散対流における振動は比較的短時間で発生する熱対流とそれに比べて長時間で形成される物質濃度勾配による対流との交替によって生じるが、熱対流の強さが強くなると、物質濃度勾配による対流を凌駕して、ベナール対流のように定常状態へと遷移することが明らかとなった。このような遷移はヘテロクリニック軌道を描くボグダノフ・ターケンス分岐となっている。 柱状物体を過ぎる流れの安定性と遷移については、既に数値シミュレーションのプログラムを作成し、計算を実行中である。これまで信じられてきた絶対不安定性ではなく、申請者が提案するアクティブ不安定性の概念の正しさを主張するための証明方法について検討中である。 いくつかの急拡大部をもつ管路流れにおける振動流の発生についても数値シミュレーションプログラムを作成済みであり、振動流の発生と維持機構の解明のための計算を実行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度には、水とアルコールの溶液中における2重拡散対流の発生と遷移を調べ、乱流が維持されない機構を明らかにした。この2重拡散対流は振動形撹乱による線形不安定性によって生じるにもかかわらず、数値シミュレーションでは流れはほとんどの場合に定常撹乱へ遷移し、振動流とはならない。この原因を明らかにするため余次元2分岐点まわりの解の分岐構造を調べ、解はヘテロクリニック分岐構造(ボグダノフ・ターケンス分岐構造)をもっていることを明らかにした。その結果をまとめてJournal of the Physical Society of Japanに論文として発表した。 柱状物体後流における振動流の発生については、平行流の安定性解析の基礎方程式であるオア・ゾンマー方程式を数値的に解くプログラムを完成し、線形安定性解析を進めている。これと並行して、円柱後流における不安定波のモデル方程式としてスイフト・ホーヘンベルグ方程式を解析的および数値的に調べることにより、申請者の提唱するアクティブ不安定性の正当性を確かめている。また、物体後流を平行流近似することによる数値シミュレーションも行ってアクティブ不安定性と絶対不安定性の関係を調べている。 いくつかの急拡大部をもつ管路流れにおける振動流の発生と維持を調べるための数値シミュレーションプログラムを既に完成し、現在いくつかのパラメータについて計算を実行中である。この流れについてもアクティブ不安定性が振動流発生の物理的機構であることを証明する予定である。 バスタブ流が対称定常流の不安定性により発生することは既に論文として発表済みである。平成27年度は対称性をもつバスタブ渦が対称性を失うピッチフォーク分岐と振動流となるホップ分岐を生じることを明らかにしたが、計算の精度について疑問をもち、現在計算精度の確認と精度の高い計算を実行中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度以降では、バスタブ流が発生する条件をさらに詳しく調べ、バスタブ渦が対称性を失うピッチフォーク分岐の生じる条件と振動流となるホップ分岐を生じる条件を精度良く求める。これらの数値シミュレーション結果を解析し、バスタブ渦が形成される物理的機構、振動流へと遷移する物理的機構を調べる。 柱状物体後流における振動流の発生については、平行流の線形安定性解析の基礎方程式であるオア・ゾンマー方程式を数値的に解くにあたっては波数を複素数で与え、複素振動数を固有値として求める。その結果から波束撹乱の群速度が0となる条件を求め、絶対不安定性の生じる条件を得て、その条件のもとで平行流近似を用いた数値シミュレーションを行うことにより、絶対不安定性が実際に生じるかどうか、あるいは我々の主張するアクティブ不安定性が生じるかどうか調べる。また、円柱後流における不安定波のモデル方程式としてスイフト・ホーヘンベルグ方程式を解析的および数値的に調べ、アクティブ不安定性の正当性を確かめる。 いくつかの急拡大部をもつ管路流れにおける振動流の発生と維持を調べるための数値シミュレーションを行い、対称定常流が振動流へと遷移する条件とその物理的機構を明らかにする。また、非線形定常流および非線形振動流の平衡解を数値的に求め、解の分岐構造を調べる。これにより、アクティブ不安定性が流れの振動流への遷移に与える影響を明らかにし、振動流が維持される物理機構を解明する。また、いくつかの急拡大部をもつ管路流れの対称定常流解を求め、その線形安定性解析を行い、不安定性が生じるときの物理的機構を明らかにする。
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