研究課題/領域番号 |
15K05222
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研究機関 | 仙台高等専門学校 |
研究代表者 |
松枝 宏明 仙台高等専門学校, 専攻科, 教授 (20396518)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ホログラフィー / 量子古典変換 / エンタングルメント / 特異値分解 / 臨界性 / 共形場理論 / 双曲幾何学 |
研究実績の概要 |
近年,量子古典対応に基づく異分野融合が進んでいる.ある分野で開発された概念が他分野の難問題を見通しよく解決する概念にもなりえることに意義がある.量子古典変換は,物性物理の電子状態シミュレーションや素粒子物理の量子重力理論構築のために必須の概念であるが,この背景には複雑な情報を高次元の簡単な表現に変換するという共通の数学的・情報論的構造が隠れていると考えられる.本研究課題では,その情報論的構造を幾つかの具体的問題に沿って明らかにすること目的としている. 平成27年度は,古典スピン模型のスピン構造を画像とみなしたとき,その一枚の画像から元の模型の分配関数の情報や相転移の情報が抽出可能かを研究した.これは情報の高度縮約への意味づけなどの応用的な側面とも関連する.またその背景にある量子一次元系との関わりについて,エンタングルメント・エントロピーとホログラフィー原理の立場から研究を進めた. 平成27年度研究実施計画で述べた2つの研究項目は,下記【現在までの進捗状況】に述べるように,計画通りの成果を得て,論文の採録まで至っている.端的に言えば,画像の特異値分解では,スピンの2点相関関数の情報を得ることができ,空間スケールの異なる相互作用の情報を自動的に分解することができる.画像の特異値から定義した情報エントロピーが,分解したデータが効率的に格納される情報空間の幾何学的構造を与える重要な量になっていることを明らかにした.このとき,スピンの値をどのように符号化するかが大切であり,その点の詳細な研究も行った.これらの成果は,ストリング理論分野で非常に重要な定理であるホログラフィー原理や笠・高柳公式と非常に類似しており,関連研究分野への波及効果は大きいと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題申請時の平成27年度計画においては,(1)フラクタル画像に対する特異値スペクトルの解析的導出と一次元量子臨界系のエンタングルメント・スペクトルへのマッピング(前期・中期),(2)特異値スペクトルに対する画像データの符号化依存性(後期),の2点を具体的な目的とした.いずれの問題も論文作成・学術誌への採録に至り,計画を達成したといえる.具体的に(1)については,AIP Conference Proceedings 1648, 200003 (2015),また(2)については,Physical Review E92, 042167 (2015),に結果が採録されている.また関連論文の幾つかも論文誌へ投稿中である.これらの研究過程で得られた結果をもとに,更に深い性質を研究することに意味あると考え,(1)に関連しては現実のイジングスピン模型のようなランダムフラクタル系への理論の拡張,(2)に関連しては理論の高次元化と一次相転移・二次相転移の識別,を関連研究としてテーマに加えるべく予備計算を進めている段階である.
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今後の研究の推進方策 |
【現在までの進捗状況】の項目で述べたように,申請の平成27年度当初目的は達成されているが,それに加えて新たな課題も浮かび上がってきており,更に深い研究に意味があると考えられる.これについては現在シンガポールの共同研究者である Ching Hua Lee 氏と研究遂行中である.また統計物理学のスピン模型だけでなくゲージ理論への応用も検討しており,その点からの研究の進展も望まれる.以上も同時に推進しながら,課題申請当初の平成28年度計画も遂行していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度研究費はおおむね予定通りの支出であり,残額はその端数程度である.
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次年度使用額の使用計画 |
コピー用紙代に充てる予定である.
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