研究課題/領域番号 |
15K05229
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
熊倉 光孝 福井大学, 学術研究院工学系部門, 准教授 (30324601)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | レーザー冷却 / 周波数安定化 / 誘導ラマン散乱 / 半導体レーザー / ルビジウム原子 |
研究実績の概要 |
レーザー冷却を行った極低温ルビジウム原子に対して運動量選択的な誘導ラマン散乱を行うために、本年度は前段階として原子セル中の常温ルビジウム原子気体に対する誘導ラマン遷移を試験的に観測を行い、その結果に基づいて、冷却原子での遷移の実現に必要なレーザー光源の改良・開発を行った。昨年度までに本研究で準備した回折格子による光帰還と狭帯域外部共振器のFM分光による電気的帰還を併せて用いた周波数線幅30kHz程度の周波数安定化レーザー光と、従来からレーザー冷却に用いている1MHz程度の広い線幅を持つ回折格子による光帰還を利用した周波数安定化レーザーの2つの光源を用いて、常温のルビジウム原子を対象に基底状態の超微細構造準位間の誘導ラマン遷移の観測を試みたところ、前者の絶対周波数の制御範囲をより拡大する必要があること、また、周波数掃引しながらラマン散乱信号を取得するために長期的な光源の安定度を更に向上させる必要があることが判明した。これまでのレーザー周波数安定化装置の改良も進めたが、従来のシステムの延長ではこれらの要求を満たすことが難しいことが分かったため、近年報告された新しい周波数安定化法を取り入れた狭帯域レーザー光源の開発に新たに取り組んだ。この光源は、狭帯域の干渉フィルターをモード選択素子として利用するとともに、キャッツアイ方式の共振器構造により、これまで我々が開発を進めてきたレーザーよりも高い安定度と広い周波数掃引幅が得られることが知られているが、我々は半導体レーザー素子へのフィードバック量を変えてより高い安定度、パワーが得られる構造に改良したシステムの開発を行い、今年度はレーザー発振を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レーザー冷却した極低温ルビジウム原子へ応用する前段階として、今年度は常温の原子セル中のルビジウム原子に対する誘導ラマン散乱の観測システムを準備し、その信号を観測するところまで進めることができた。誘導ラマン遷移の観測について実際に必要な装置を用意し、観測条件に関する実験的な知見を得ることができ、これを利用して今後の冷却原子への応用に繋げることができる。また、この誘導ラマン遷移の観測結果から、実際の極低温原子への応用には周波数安定化レーザー光源の改良が必要であることが分かったが、その対応策として、新たな周波数安定化法を利用した高安定狭帯域レーザー光源の開発に着手し、レーザー発振を確認するところにまで至ることができた。このレーザーシステムは昨年度までに開発を行ったレーザー光源よりも高い周波数掃引幅、実験時の安定度、狭い周波数幅が得られると報告されており、今後、これまでに比べて実験の効率を大きく引き上げることができるものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は開発を開始した新たな周波数安定化レーザー光源の特性を詳細に調べ、始めに平成28年度試みた常温ルビジウム原子気体での誘導ラマン散乱の観測に再び取り組む。良好な信号が得られるようにレーザー光源の調整や装置の改良を行い、その後、レーザー冷却した極低温原子気体での誘導ラマン散乱の観測に取り組む。ここまでの実験は基底状態の超微細構造準位間の誘導ラマン遷移が観測対象であるが、これを確認したのち、運動量状態間の誘導ラマン遷移の観測に取り組む。この実験では、新たに開発する狭帯域レーザー光を2つに分けて、音響光学変調器を用いてそれらに運動エネルギー差に相当する周波数差を印加して誘導ラマン散乱を行う。散乱の結果は原子の空間分布の変化を観測することで確認する。これらの観測を確認次第、ボース凝縮体での誘導ラマン遷移観測に移りたい。
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