研究課題/領域番号 |
15K05231
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
松本 淳 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (10443029)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 多価イオン衝突 / 電子捕獲 / 分子解離 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,多価イオン-分子衝突における標的分子の多電子捕獲後の分子内の電子の再配置から解離に至るダイナミクスを追跡することである。本研究を遂行するにあたり問題となっているのは,衝突領域を通過する多価イオンの軌道まで考慮されておらず,多価イオンが衝突領域を効率良く通り抜けていない点である。また衝突後の多価イオン(散乱イオン)の価数分析が適切に行われおらず,異なる価数の散乱イオンが十分に検出器上で分離できていない点である。2015年度は,これらの問題点を解決するため,イオンビーム輸送系の再検討を行った。 まず,散乱イオンの価数分解能の向上を目指した。衝突領域から離れた場所に設置されていた偏向電極をできるだけ近い位置に移動するように,イオン軌道シミュレーションを行い電極形状と配置の最適化を行った。その結果を元に偏向電極を新たに製作した。現在,製作した偏向電極を現有装置に設置し性能評価を進めている。 次に,衝突領域における多価イオンビーム軌道の最適化の検討を行った。当初,偏向電極による多価イオンビームやガスジェットノズルの位置を調整する予定であったが,ガラスキャピラリーを用いたイオンビームのガイド効果を利用して多価イオンを衝突中心に導入する方法の検討を始めた。ガラスキャピラリーを衝突実験装置に組み込んでイオンビームの輸送を行う例はほとんど見られない。キャピラリーの実用研究として,本研究を通じて今後展開していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の目標としていたイオンビーム輸送特性の評価をほぼ終了した。しかしながら,当初,偏向電極による多価イオンビームとガスジェットノズル位置を調整し両ビームの重なりを調整する予定であったが,ガラスキャピラリーを用いて標的ガスに対する多価イオンビームの重なりを調整する方法の検討を始めた。ガラスキャピラリーを用いてイオンビームを輸送した経験がなく,情報を集めながら推進しているため,時間がかかっている。ガラスキャピラリーを用いてイオンビームを輸送の評価を早急に行い,研究の最終目的が達成できるよう研究を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度以降は,今回設置した偏向電極の性能評価を行うため,標的粒子として既に電子捕獲過程が研究されているアルゴンガスや窒素ガスを用いて装置の再校正を行う。衝突後の多価イオンが設計どおり輸送され価数分析の後,検出器に到達するか確認する。 またガラスキャピラリーによるイオンビームの衝突中心への輸送を行う。まず,現有装置にガラスキャピラリーを設置するためホルダーを製作する。多価イオンビームをガラスキャピラリーを通過した際,イオンビームの質(価数分布・エネルギー)などを入射時と比べて,どのような影響を受けるか評価する。必要であれば,ガラスキャピラリーの材質・形状(長さ・内径など)を変化させ本研究において最適なキャピラリーを選定する。 その後,硫化カルボニルを標的分子として解離実験を行う。この段階では,単に散乱イオンの価数分析のみで反跳運動量を測定していないため,予備的な実験となる。同時にもう一組の位置敏感検出器を導入し,標的分子の解離イオン片と散乱イオンの同時検出を目指す。本研究で使用しているバックギャモン型位置有感検出器は当研究室で開発されたシステムであるため,計測ソフトウエアの改良も独自に行わなければならない。ソフトウエアの主な改良点は,散乱イオンの位置検出信号と標的分子からの解離イオン片の位置検出信号を互いに関連づけて保存し解析することである。そのため保存データフォーマットの再設定やデータ処理速度向上させる。随時,開発したソフトウェアを用いて多価イオン実験で実践テストを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初,偏向電極による多価イオンビームと標的ガスジェットノズルの位置を調整し両ビームの重なりを調整するため,ノズル位置を調整する「真空用XYステージ」と周辺の真空装置で支出予定あった。しかし,ガラスキャピラリーを用いて標的ガスに対する多価イオンビームの重なりを調整する方法の検討を始めたため,これらの支出を保留した。
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次年度使用額の使用計画 |
現在,ガラスキャピラリーを用いてイオンビームを輸送の評価を早急に行っている。この評価が終了次第,現有装置にガラスキャピラリーを組み込む経費として助成金を使用する予定である。
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