研究課題/領域番号 |
15K05233
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
衞藤 雄二郎 学習院大学, 理学部, 助教 (50600003)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 多成分ボース・アインシュタイン凝縮体 / 非平衡ダイナミクス / 原子間相互作用制御 / 混和性 / ドレスト状態 |
研究実績の概要 |
本研究では、ラジオ波やマイクロ波によるラビ結合を利用して、豊富な内部自由度を持つ原子気体ボース・アインシュタイン凝縮体 (BEC) の新規な制御法を確立し、非平衡ダイナミクスを観測することを目的としている。 平成27年度は、「2成分BEC間のラビ振動を利用したBECの空間パターンの制御」、「2成分BECの衝突による非平衡ダイナミクスの観測」、「2成分BEC間のラビ結合の観測」の3つの実験を行った。 ①混ざり合わない2成分系での相分離ダイナミクスとマイクロ波によるスピン遷移を利用することで、混ざり合う2成分BECの空間構造を制御し、非平衡ダイナミクスを励起することに成功した。混ざり合う2成分BECに不安定な空間構造を転写することにより、パターンの振動的な変化が観測された。さらに、様々なパターンを転写することにより、振動の周期が全系のエネルギーと密接に関連することを明らかにした。 ②Rb原子の豊富な内部スピン自由度を利用して、様々な大きさの混和性を持つ多成分BECを生成し、磁場勾配パルスを用いることにより、多成分系の多様な衝突特性を観測した。具体的には、バウンドする2成分BECや互いに透過する非混和なBECなど様々なダイナミクスの観測に成功した。 ③Rb原子のゼーマン準位間にラビ結合を誘起し、コヒーレンス時間を評価することに成功した。さらに、ラジオ波の強度に依存した空間構造の変化を観測することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では、2成分ボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)に対してラビ結合を誘起し、結合強度を変化させることで、2成分間の原子間相互作用を実効的に制御することを目標としていた。本年度は、測定結果の一部が理論シミュレーションと一致しないため、原子間相互作用の実効的な制御を実証するまでには至らなかったが、2成分BECのラビ振動の観測及び、2成分BECの空間パターンの結合強度依存性の観測に成功している。 さらに、原子の持つ豊富な内部自由度とラビ振動を利用した多成分BECの新規な非平衡ダイナミクスに関する2つの実験を行った。これらの実験は、当初計画にはなかったが、多成分BECの新規な制御法と非平衡ダイナミクスの観測を実現したものである。1つは、相分離ダイナミクスとマイクロ波遷移を利用することで、BECの空間構造を制御し、非平衡ダイナミクスを励起することに成功した。もう1つの実験は、磁場勾配パルスを利用して、多成分BECを衝突させる手法であり、2成分BECの原子間相互作用の大きさに依存した多彩なダイナミクスが観測された。 これらの研究結果の進歩状況から考えて、当初計画の実験に関しては、おおむね順調に進展しており、さらにその他の2つの実験の成功に関しては、当初計画以上の進展であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は当初計画通り、ラビ結合による2成分ボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)の実効的な相互作用制御に関する研究を進める。磁場変動や原子密度など各種パラメータが空間構造のダイナミクスに与える影響を詳細に調べることにより、実験とシミュレーションの不一致の原因を解明する。そして、シミュレーションとの定量的な比較から、2成分BECの原子間相互作用制御を実証する。 昨年度の研究の進展により、2次ゼーマン分裂が無視できるような低磁場環境で様々なスピン状態を生成することが可能となった。そのため、本年度は2成分BECだけではなく、低磁場環境で生成することができるスピン2BECにおけるラビ結合の研究も行う。スピン2BECに共鳴するラジオ波を照射した場合、5成分のポピュレーションが時間的に変化する振動現象を観測することができる。本研究では、様々な初期状態からラビ結合により誘起される振動を観測し、デコヒーレンスのメカニズムを解明する。
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