研究課題/領域番号 |
15K05236
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
近藤 公伯 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究主席 (80225614)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 極相対論的光電磁場 / 多価重イオン / 光電離 / 磁場の影響 |
研究実績の概要 |
電離エネルギーが10 keV程度を越すような重原子核の低主量子数の軌道に束縛されている電子の電離は、近年のペタワットレーザーを高集光すれば十分に可能になると考えられるが、このような束縛電子の光電離現象は、磁場の影響による効果を考慮するなど検討すべき課題があることがReissにより指摘されている。すなわち、従来はDCトンネル電離理論により電離確率を評価することが妥当とされていたことに対し、十分内殻の束縛電子はそのイオン化ポテンシャルの深さからも推測されるように、束縛電子のエネルギーが磁界との相互作用が無視できないレベルになり、従来モデルの適応外となっている。本研究では、波長800 nmの光を1e22W/cm2に達する光強度まで高集光し、そのような光電磁場における多価重イオンの電離の様子を観測する。これにより極相対論的光電磁場下でのトンネル電離現象が、従来の理論により説明可能かどうかを実験的に明らかにし、極相対論的光強度における電離現象を明らかにすることを目指す。以上のような背景の中、本研究ではγ>10となる、すなわち~1e21 W/cm2を上回る光強度を実験的に実現し、様々な原子、特に重原子核イオンの光電離の様子を、これまで誰も実行してこなかった極相対論的な光を使って観測する。これにより、a0>>1の領域において発生イオンとレーザー照射強度の関係を調べ、ADK理論やBSI理論との比較を通じて、Reissの指摘の妥当性を明らかにする。具体的には、原子の扱いやすさから、希ガス原子としてAr、Kr、Xeのイオン化の様子を観測する。また、レーザープラズマ状態を利用することで、より高い原子番号の金や鉛などについても、同様の観測をすることを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該提案は極相対論的光電磁場を実験室に発生させ、そこに高Z原子を晒すことで電離の様子を観測することから可能になるが、極相対論的光電磁場を発生するために用いる予定の量研関西研のJ-KARENレーザーはまだ完全に高度化が完了しておらず、遅れが生じている。励起用ガラスレーザーにトラブルが頻発していることに加え、レーザー増幅器内のビーム径調整機構にレンズを多く使用しているため、広帯域レーザー光に対する集光時の色収差が無視できなくなる問題が顕在化した。現在、これに対する対応が進められており、28年度内には完了を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
まずは使用を予定しているJ-KARENの高度化を完了し、可能な集光強度を1e22 W/cm2程度まで引き上げることを推進する。また、差動排気による相互作用チャンバーの準備が滞っているため、ガスジェットによるイオン化観測の可能性を検討し、実験データ取得へ進める予定である。実験がレーザー開発の遅れにより遅れていることを受け、理論的検討を深めていきたい。具体的にはReissが指摘するABS(E)=ABS(B)かつE・B=0という電磁場下でのイオン化において、束縛電子に対する磁場の影響の考え方を明確にする。高Zの水素様原子の電離についてEのみが原子に印加された時とEとBが同時に直行した状態で印加された時の電離について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は予定していたレーザー装置の高度化に時間を費やし、まだ平成27年度末段階で高度化は完了しておらず、これを受けて研究進捗に若干の遅れが生じた。そのため予定していた予算執行項目を次年度以降に執行する予定とした。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度に使用を予定していたJ-KARENレーザーを利用して実施する実験に必要な消耗品の購入に当てる予定である。具体的には、ターゲットとなるキセノンガスや、実験で使用する光学部品や真空配管、ガス配管等に必要な継ぎ手や配管部品など。
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