本研究では、研究代表者が所属する研究機関QSTが所有する高ピーク出力レーザー(J-KAREN)を極限的な大きさまで絞り込むことで発生できる極相対論的な光電磁場を実験室にて作り出し、そのような光電磁場中で起こる多光子的なイオン化の様子を実験的に捉える。実験データをこれまで標準とされてきたトンネル電離モデルと比較することで、極相対論的電磁場固有のイオン化モードの有無を見極め、理論的考察を進めて、極相対論的な光電離について明らかにすることを目的とする。 本件の目的達成のためにはJ-KARENレーザーの集光性能が予定通りに高められていることと、計測に必要な専用のTOFイオン分析装置が準備できていることが必要である。これに対し、目標とする集光強度の実現が平成27年度中には達成できず、むしろJ-KARENレーザーの増幅段における拡大光学系の致命的問題点が顕在化したことを受け、平成28年度には、これに対する対処とその結果可能となった高強度光電磁場を利用した薄膜によるイオン加速実験を行った。この結果、レーザー集光性能の目安となるストレース比が0.07程度から、0.4以上まで飛躍的に改善され、陽子線の最大エネルギー54 MeVを得ることができた。一方で、J-KARENレーザーのビーム拡大系における不具合の影響で、パルス圧縮器直前のビームパターンに強度の強い部分が発生することが分かった。 平成29年度には、この不具合を解決し、さらに最終段増幅器で生じた不具合を解消して、再度イオン加速実験が可能な状況を作ることに成功した。トンネル電離の状況を実験的に捉える上でのレーザー装置の準備は整ったが、具体的な観測は今後の研究が必要となった。
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