研究課題/領域番号 |
15K05237
|
研究機関 | 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び東海事業 |
研究代表者 |
柳町 治 (酒井治) 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び東海事業, その他部局等, その他 (60005957)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 放射線・X線・粒子線 / 量子ビーム / He+ビーム / スピン非対称性散乱 |
研究実績の概要 |
当該研究課題の目的はスピン偏極He+イオンビームと常磁性原子標的との衝突実験において観測された異常なスピン非対称性散乱「ポテンシャル散乱に基づく理論的予測と比べ、非対称成分強度が1万倍程度であり、また、標的物質がAu等の場合、非対称成分の相対強度の散乱角度(θ)依存性が単純なsinθから外れ、cosθsinθとなる」の起源を解明することである。 平成27年度において、Heイオンと標的原子の間の電子移動中間励起状態で発現する原子内電子スピン軌道相互作用がHe核の運動に影響を及ぼし、これが異常なスピン軌道結合効果を生じることを明らかにした。理論形式上留意した点は、散乱の非対称性という微妙な問題を対象とするため、不用意な誤りを避けるよう、量子力学の摂動理論に忠実な計算を行った。一方、対象とするエネルギー領域は半古典力学領域であるため、数値計算は複雑となった。 第一段階として波数ベクトル表示による定式化を展開した。この方式は定性的パラメータを含む形ではあるが、簡明な表式に纏められる。これにより、上記の機構は非対称成分の大きさを再現可能であること、d-対称性軌道電子が中間状態で励起されるAu等のケースには散乱角度依存性がcosθsinθとなることを示した。 第二段階として、角運動量表示による定式化を進めた。この方式は複雑であるが一般性が高く、かつ定量的な計算が容易である。得られた表式では励起電子の軌道対称性と散乱角依存性の関係が明示的ではなく、波数表示の結果の位置付が不明であった。このため、波数表示の結果の公刊を一時的に猶予した。 最近の進展により、角運動量表示による表式において波数表示と同等な結果となり得るのは「電子移動が核子・核子散乱の漸近領域で生じる状況にある」場合などであることが明らかとなり、これらの結果を公刊すべく作業を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では平成27年度中に、波数表示により得られた結果「偏極He+ビームと常磁性原子標的の衝突散乱における異常なスピン軌道結合の起源が電子移動中間状態での電子の原子内スピン相互作用にあり、Au等に見られた散乱角度依存性もd電子励起として再現可能である」を公刊する予定であった。 然しながら一般性の高い角運動量表示の形式の枠内で、波数表示で得られた励起電子軌道対称性と散乱角度依存性の単純な関係を再現する数学的条件を明らかにすることに手間取り、公刊を猶予することとなった。現在では、両表示の相互関係を数学的にも示し得る段階に到達し、理論形式は整備されたものとなった。従って、より信頼性の高い基盤のもとに結果の公刊の準備を進めることができるようになった。
|
今後の研究の推進方策 |
Pbなどのケースでは、Heイオンと標的原子の間での電子移動が共鳴的に生じていると考えられる。角運動量表示による定式化を行った一つの目的は共鳴ケースを対象とする準備でもある。今後、共鳴移動の生じている場合について研究を進める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では平成27年度中に研究内容の一部を公刊する予定であったが、進捗状況の部分でも述べた事情により、公刊時期を平成28年度に変更した。公刊の費用の分を繰り越した。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度中に、平成27年度に計画していた部分も公刊する。この公刊費用に充てる予定である。
|