リオトロピック液晶は脂質などの両親媒性物質と水などを混合した系で観測される。リオトロピック液晶で観測される相は、周期的な構造を持つが、液晶であるため流動性も持つ。 脂質モノオレインのⅡ型キュービック相の単結晶領域を用いて、ダイアモンド型からジャイロイド型へのキュービック相の間での相転移を調べ、その方位関係を明らかにした。そして相転移のモデルも提唱した。 次に細管内でのII型ヘキサゴナル相(HII相)の単結晶領域(モノドメイン)の作成を試みた。作成できた単結晶領域は二つの型に分けられ、単結晶の長軸方向が細管の長軸方向と一致するもの、そして単結晶の長軸方向が細管の外壁に沿って円を描いているもののを見出した。 最後に私は脂質モノオレインと水を混合した系で観測される2型のキュービック相のP型、D型、G型すべてについて単結晶を作成し、X線構造解析を行った。これはリオトロピック液晶のキュービック相として世界で初めてのX線単結晶構造解析の例となる。それぞれ試料について脂質2重膜構造が観測でき、電子密度の高い脂質頭部、低い炭化水素鎖、そして水の領域が明瞭に区別できた。そして脂質炭化水素鎖末端のメチル基の位置する二重膜の中央部が、P型、D型、G型の対応する極小曲面上に来ることが示された。また脂質2重膜のゆらぎが、脂質2重膜の位置する極小曲面のガウス曲率に依存していることが示された。この特徴はP型、D型、G型すべての2型キュービック相で観測された。このため脂質モノオレイン/水系のキュービック相では共通した特徴と考えられる。リオトロピック液晶は流動性を持つ液晶の単結晶構造解析であるため、本質的に揺らぎが大きく得られたX線データの空間分解能は高くない。しかし精度よくデータを測定すれば、今まで得られていないさまざまな重要な情報が獲得できることを示した。
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