研究課題/領域番号 |
15K05248
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
有賀 隆行 九州大学, 理学研究院, 特任准教授 (30452262)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 1分子計測・操作 / 生体物質の物理 / 非平衡物理学 / エネルギー変換 / 生体分子モーター |
研究実績の概要 |
生命は、多数の生体分子機械がエネルギーを消費しながら働く本質的に非平衡な系である。個々の分子機械の仕組みは明らかになりつつあるが、普遍的な法則の理解には至っていない。我々はこれまで、微小管の上を動きながら荷物を運ぶ生体分子モーターであるキネシンの運動や力生成を計測し、ゆらぎが機能に関わっていることを明らかにしてきた。一方で、細胞という環境では細胞を形作る細胞骨格自体も熱ゆらぎとは別に非平衡なゆらぎを自ら作り出していることが明らかになった。そこで本研究ではそのようなアクティブにゆらいだ環境が分子モーターの積極的な寄与を与えているのではないかと着目し、その影響を直接観察・操作することで、生体内における非平衡ゆらぎの意味とその普遍的な法則の理解を目指している。 昨年度には、実験的なパラメータを元にした現象論的なキネシンの数理モデルを用いたシミュレーションにより、外部ゆらぎがどのようにキネシンの運動に影響を及ぼすかを検証し、運動様式を変化させうることを見いだした。今年度は、キネシンの運動計測に外部的なゆらぎを加えるための、高速度フィードバック制御を可能にした光ピンセット装置にさらなる改良を加え、キネシンの運動に非ガウス的なノイズを与える系を開発し、その装置を用いて予備的な実験結果を得た。また、これまで計算機シミュレーションで用いてきたキネシンモデルに対して解析的に解く事が可能となり、その解析解を用いることで、外部からの微小なゆらぎによりキネシンがどのような応答を示すのかを理論的に求めることを可能にした。その成果を論文としてまとめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では平成27年度中に人工的なゆらぎを与えたキネシンの運動計測と、非平衡エネルギー変換効率の定量を行う予定ではあったが、大学の移設による装置の再構築などが必要となった関係で、まずはシミュレーションや理論的研究を、実験研究に先んじて行っていた。その影響で実験による結果を得るのが平成28年度にまでもつれ込んでしまい、その結果、本来平成28年度に予定されていた装置の改良とアクティブ環境下での実験計画に遅れがでている。しかし、その一方で、キネシンの数理モデルを用いたシミュレーションとその解析解は実験計画にない新たな成果を与えており、その部分が論文として纏められる段階にきていることは当初の計画以上に進展したともいえる。そのため、トータルとしては、概ね順調に進展しているという自己評価をしている。
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今後の研究の推進方策 |
当初は28年度以降に行うとしていた計画どおり、キネシンの運動をアクティブなゆらぎ環境下で計測するための装置の改良と、実測を並行して行っていく。これまでに数理モデルを利用して得られていた計算機シミュレーションや理論解析からの知見を実験環境にフィードバックさせることにより、効率的な実験研究の推進が期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、平成27年度にキネシンの運動にゆらぎを与える新たな装置を開発し、運動の観察を行う予定であったが、27年度の途中で研究実施機関の移転があった影響で実験装置を一度解体する必要に迫られ、当初の予定を変更してシミュレーションと計測用のプログラミングをメインに行った。その結果、理論的な研究の方面で想定外の進展が見られ、平成28年度には主として理論研究を進めて論文として纏める作業をしていたため、装置改良に伴う経費の利用に遅れが出てしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度以降に行うとしていた計画どおり、キネシンの運動をアクティブなゆらぎ環境下で計測するための装置の改良を行い、そのための光学系機器・備品に次年度使用額として生じた多くの基金を使用する。並行して実験研究を行い、その遂行には本年度計画通りの基金を利用する。これまでに数理モデルを利用して得られていた計算機シミュレーションや理論解析からの知見を実験環境にフィードバックさせることにより、効率的な実験研究の推進が期待できる。また、理論・実験の両面に於いて得られた研究成果の対外発表および論文投稿にも基金を使用する。
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