研究課題
生物による発熱を1細胞レベルで計測し、そのメカニズム解明を目的とした細胞内温度計測の技術開発が進められているが、マクロスケールで測られる値では1細胞から得られた結果を説明できない(「10の5乗ギャップ問題」)。10の5乗ギャップの所在を明らかにするため、本研究では、細胞内に特有の環境は希薄な水系と異なるかどうか、実験的に確かめることを目指す。骨格筋からの熱産生に由来する温度変化を1細胞レベルで定量イメージングする研究を、細胞の系から動物個体の系へと発展させた。ここでは赤外線カメラでも見られるほど大きな温度変化を体表面で生じる甲虫の飛翔筋に着目した。紫外から青い光をあてると紫外域から緑に至る蛍光を発する物質が、筋肉には多く含まれる(自家蛍光)。この強い自家蛍光を避ける目的で、赤から近赤外域で発光する温度計色素を利用し、さらに温度感受性の低い色素を合わせて用いることで、動物の動きに由来する計測誤差を、これら二つの蛍光色素の強度比を計測する(レシオ計測)ことでキャンセルする新しい定量温度イメージングの手法を開発した。この新しい手法を用いて、生きている甲虫からの自発的な熱産生に由来した体表面での温度変化を、筋線維1本ずつの空間分解能で検出することに初めて成功した。甲虫での応用に限らず、動物個体モデルへと応用可能な1細胞定量温度イメージング技術として広く展開できると期待される。また細胞内の微小熱源を開発する過程で、ナノ材料に近赤外光を照射して細胞内の微小熱源として利用すると、細胞内の温度が上昇し、これが、Ca2+濃度変動を経由せずに骨格筋の収縮を誘導できることを新たに見いだした。電極を利用した骨格筋刺激の欠点を克服できる可能性がある新しい筋刺激の手法として、Nature Nanotechnology誌をはじめ注目を集めている。
2: おおむね順調に進展している
骨格筋を用いた初年度の研究を引き継ぎ、動物個体での1細胞温度イメージング、および細胞内微小熱源による細胞内温度変化の定量イメージングと新しい細胞応答(熱による筋収縮の誘導)の発見に成功しており、おおむね計画の通り進んでいるものと判断している。
研究計画の変更は予定していない。前年度の研究を継続し、当初の研究計画に沿って次年度も研究を進める。
本年度も、主に共通機器もしくは共同研究者における設備を利用することで本研究費からの物品費の支出を抑えることができたことで、次年度使用額が生じた。
物品費については本年度と同様に、共通機器や共同研究者の協力を得て、節約して使用する。また、これを共同研究にあたり必要な旅費、通信費などへ効果的に配分することで、全体として最大限の効果を上げられるよう努める。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 5件、 招待講演 3件)
ACS Nano
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10.1021/acsnano.6b08202
アグリバイオ(Agricultural Biotechnologty)
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