研究課題/領域番号 |
15K05253
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
中沢 寛光 関西学院大学, 理工学部, 教育技術主事 (70411775)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 皮膚角層 / 経皮吸収 / 経皮吸収促進 / X線回折 |
研究実績の概要 |
皮膚は人体の最外層を覆い、そこで生体の恒常性の維持には必須の皮膚バリア機能を発揮する。このバリア機能は、皮膚の最表層にある角層によって主に成し遂げられており、従って皮膚のバリア機能を理解するためには角層の物性を十分に知ることが重要な課題となる。近年、薬剤の開発分野等において、薬剤の経皮吸収現象と角層との相互作用を明らかにする試みが多数なされているが、生体試料である角層は複雑系であり、また個体差も多分に存在するため系統だった解析が難しいのが現状である。これに対し我々は、X線回折用の特殊な試料保持装置を開発し、これを用いて角層内を浸透する物質のリアルタイム計測を実現してきた。本研究では、経皮浸透過程にある角層の構造をX線回折法により解析することで、角層内を浸透する物質が、電場などの外部刺激に対してどのように応答するのかに着目して実験を行った。 X線回折実験はSPring-8(BL03XU、BL40B2)で実施した。前年度は主に試料保持装置の構造を検討し、さらに今年度に関してはその形状に基づいた電場刺激を加える電極の開発を行った。また、実際に当装置を用いて電場刺激下における経皮吸収過程にある角層の構造変化を解析し、物質の経皮浸透性と電場の波形(電圧、直流か交流か、交流であれば波形と周波数など)との関係性に関するデータを広く取得した。 今後は、これらのデータを広く世の中に還元し、さらに経皮吸収に対する物質と電場波形の関係性を明らかにしていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
H28年度は主に独自に開発した試料保持装置に組み込む電極の形状設計に取り組んだ。放射光による皮膚角層のX線回折実験を行い、それによる構造解析の結果を元に電極極板の修正を繰り返し実施した。またこれらの装置を用いて、実際に角層に溶液を塗布した際に生じる構造変化、及びその電場による影響を広く解析した。この間、使用したX線ビームラインの装置が刷新され、高時間分解能のデータを取得することが可能になったが、データの取得形式やファイルのフォーマットが新しくなり、こちらの解析プログラムなどにも大幅な修正の必要性が生じた。これらの事象に対応するため、実験と解析の進行具合に遅れが生じている。また同じくデータ数が多くなったため、解析データの自動処理プログラムを開発することが不可欠になってきた。これらのプログラムは現在作成している途中である。今後はこれらを整備し、より高精細なデータをアウトプットしていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きX線回折プロファイルを自動的に解析することができるプログラムの作成を継続する。既存のプログラムのファイル読み取り方式を、新しくなった装置のファイルフォーマットに対応させ、さらに多量の1次元化プロファイルに対して自動的にモデル関数をフィッティング、シンプレックス法により収束させるよう修正する。さらに当測定装置で生じるいくつかの特殊条件に対応させるなど、デバック処理も継続する必要がある。現在のところ80%程度は終了しているので、早期にそれらを仕上げ、既取得データの解析を急ぐ。経皮吸収に対する電場の影響確認が終了した後には、それらを論文にまとめつつ、さらに超音波刺激の実験に移行する。 当研究課題はSPring-8の2017A期の実験課題に採択され、すでに実験を実施した。2017B期についても同様に課題を申請し、実験を実施したいと考えている。また同時に高エネルギー加速器研究機構にも実験実施の申請をする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
市販のイオン導入器などを購入し、電場特性などを分析したところ、体内側を正に、顔表面側を負とする10数ボルト程度の高周波(周波数数kHz程度、オフセット設定)が多いことがわかった。過去の文献からもう少し複雑な波形が適切であると予測されたが、とりあえずはこれらの波形で電場を印加し実験することにした。これらの波形は大学所有のファンクションジェネレーターで形成可能であり、しばらくはそれを実験に用いることにした。従って購入予定であったファンクションジェネレーターの価格分程度未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
電場印加の実験を継続し、必要であればファンクションジェネレーターの購入を検討する。さらに超音波発生装置に関してもまだまだ検討が必要であり、そちらの装置類を充実することも検討したい。また次年度に関しても広範囲に実験すべく、マンパワーを充実させるための謝金や、広く世界に情報発信していくための旅費等、研究費を柔軟に有効的に活用していきたい。
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