医薬品や化粧品の経皮吸収性を議論する際は、製剤そのものと皮膚バリアの主要構成物である角層との相互作用を明らかにすることが重要な課題となる。本研究では、この角層の細胞間脂質構造とバリア機能の関係性を広く調査し、特に温度や電場などの外部刺激が、細胞間脂質の構造やその内部を移動する物質の透過挙動にどのように影響するかを明らかにすることを目指した。 実験には、美容外科手術後に廃棄された皮膚から単離したヒト角層や、角層の細胞間脂質構造を模倣した人工脂質膜を用いた。これらの試料を、大型放射光施設SPring-8(BL03XU、BL40B2)や高エネルギー加速器研究機構PF(BL-6A)に持ち込み、それらの微細構造をX線回折法にて解析した。X線の波長を0.08~0.15 nm、カメラ長を50~150 cmに設定し、小広角同時X線回折実験を実施した。これらの試料を独自に開発した試料保持装置に設置し、そこに熱や電場などの外部刺激を加えつつ、同時に放射光X線を照射して構造変化の様子を詳細に解析した。 角層の温度を変化させ、同時にそれらの構造と膜間を移動する水の移動速度をモニターしたところ、細胞間脂質の相転移温度付近で、水の透過性に擾乱が生じる様子が観察された。また細胞間脂質の構造に影響を与える物質を角層に塗布し、その構造変化の様子をX線でモニターしながら角層間に様々な種類の電場を印加したところ、電場の印加時にその構造変化の速度が変化することが分かった。これらの結果は角層のバリアと細胞間脂質の構造が密接に関係していること、電場の印加により経皮吸収性が上がる可能性があることを示唆している。今後、様々な個体の角層でこれらの結果の再現性を確認し、さらに印加する電場の種類が経皮吸収性に及ぼす影響などを詳細に解析していく予定である。
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