研究課題/領域番号 |
15K05258
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研究機関 | 神奈川県産業技術センター |
研究代表者 |
津留崎 恭一 神奈川県産業技術センター, その他部局等, 研究員 (90426388)
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研究分担者 |
白崎 良演 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90251751)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ポリイオンコンプレックス / ダイラタンシー / 分光透過率 / レオロジー特性 |
研究実績の概要 |
静置状態では低粘度,振ると高粘度状態(ここでは便宜上ゲル化とよぶ)となるダイラタンシー性PIC水溶液(以下,DiPIC)について,ゲル化前と後における可視光領域での透過率の変化を調べたところ,ゲル化後では400-750nmの幅広い領域で透過率が低下した。この理由は,光の波長程度のネットワークが過渡的に生成したためと考えられる。 さらに,ゲル化後の試料を静置し,その後の時間変化を調べた。この結果,時間が経つにつれて透過率が2000s程度まで単調に上昇し,その後,一定値となることが分かった。この振る舞いは,剪断停止後にネットワークが熱揺らぎで崩壊した過程を表していると考えられる。従って,一定値に達する時間はゲル状態が剪断停止後にも保持される時間に相当すると考えられる。無剪断流動下では原理的に粘度が測定できないために,この結果はゲル化保持時間を知る大きな知見となる。 また,ゲル化メカニズムの理論検討をするために,ゲル化前と後の粘度の温度依存性を検討した。粘度のアレニウスプロットで見かけの活性化エネルギーを見積もった結果,ゲル化前では13.4[kJ],ゲル化後では8.2[kJ]となった。ゲル化を起こす最低の剪断速度(臨界剪断速度:dr_c)については,温度が上昇すると単調に低くなった。 興味深いことに,剪断速度を各温度のdr_cでスケールすると,すべての粘度データが一本の直線上(マスターカーブ)に乗ることが分かった。これは,過渡ゲル化の物理機構が概ね臨界剪断速度によってスケールされることを意味し,理論の構築さらには実用化を検討する上で大変重要な結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の目標であったROシステムの事前測定は終了し,実際にゲル化前後で透過率の変化があることが分かった。以下に詳細を述べる。 透過率測定と粘度測定を組み合わせたROシステムの構築を様々な角度から検討した結果,研究申請当初に想定していた既存の動的粘弾性測定装置に光学系を組み込むよりも,粘度測定部を回転粘度計にした方が自由度や汎用性が高いと判断した。このため,B型回転粘度計(ブルックフィールド社製 RVDV2T)を新規購入することとした。 粘度は,測定装置は勿論のこと,治具や細かい設定条件によって値が大きく変わることがある。さらには,剪断流動が振動から単純な一方向に変わることで,ダイラタンシーの特性が変わってしまうことが懸念される。そこで,単純な高分子溶液で広く知られている単純剪断による単純粘度と振動剪断による複素粘度の関係を与えるCox-Merz則が,非線形レオロジー液体であるDiPICでも成立するかを検討した。ここで,非線形液体がCox-Merz則に従うことは自明ではないことを注意する。 この結果,剪断速度がdr_cより下(ゲル化前)と上(ゲル化後)では単純粘度と複素粘度がほぼ同じべき乗則で表すことができた。但し,dr_cは動的粘弾性の振動数が高くなるにつれて高振動側にずれていく。しかしながら,この差も振動数と振幅の積をdr_cで規格化することで吸収されることが分かった。従って,DiPICは単純粘度と複素粘度間に期待される比較的簡単なスケーリング則に従うといえる。結論として,Cox-Merz則が成立したことから,購入備品でもROシステムは問題なく構築できると考えられる。 以上のことから,平成27年度の研究内容と結果は想定した範囲内であり,研究計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ゲル化によって透過率が全体として低下することは,前述の通りだが,さらに細かく言えばゲル化前後で650-750nmの領域の吸収パターンが僅かながらも定性的に変化した。この観測が正しければ,ゲル化メカニズムの解明にとって,この辺りの大きさが鍵を持つ可能性を示唆している。但し,この結果については定量的な再現性が乏しいため,来年度以降も注視しながら検討を進めていく必要がある。 具体的には,今回の測定ではゲル化させるために試料セルを手で振とうさせたため,剪断力が制御できていない。また,振ることで細かい泡が発生して実験結果を乱している可能性も残っている。そこで,平成28年度では,さらなる試験方法の高度化と追試を行って,再現性と定量性が高いデータを得ることを第一の研究目標とする。また,透過率変化が本当に粘度と関係しているかを確認する。このため,購入した回転粘度計にマルチ分光測定器を組み込む。 第二の目標として,回転粘度計に光学観察装置(CCD顕微鏡など)を組み込み,ゲル状態を直接観測できる方法を探索する。具体的な方法として,DiPICを何らかの方法で着色して色の濃淡を顕微鏡で観察する,微小粒子を振りまいてこの動きを画像解析する,などを想定している。この目的は,ゲル状態の形成過程を局所的および時間的に観察するためである。複屈折を定量的に測ることができれば,内部応力を計算によって求めることも可能となる。 最後に,計画通りに研究が進行していることから,研究体制の大きな変更は考えていない。
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次年度使用額が生じた理由 |
ROシステムを構築する上で粘度測定部に回転粘度計を新規導入したが,入札額が当初の見積もり額よりも大幅に低くなった。また,回転粘度計の入札時期が遅れたことで,H27年度に予定していた透明治具の作成についてもH28年度に持ち越しとなった。 このことから,使用額が変更となった。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度には,持ち越しとなっている透明治具を作成し(30万円程度を想定),さらに研究発表も積極的に行う予定にしている。このため,予算は当初の予定通りに執行する計画である。
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