ホモポリカチオン(PC)とランダムポリアニオン(PA)を水に溶かしたダイラタンシー性PIC水溶液(DiPIC)は、臨界剪断速度gc以上の剪断流動下で待ち時間tI後に急激に粘度ηが上昇する興味深いレオロジー特性を示す。いま、ηが上昇した状態を簡便にゲルと呼ぶ。ゲル状態にあるDiPICを静置すると、戻り時間tr後に元の低粘度状態へと戻る。過渡的ゲル化現象を探るため、本年度はgcとtrのPC及びPAの分子量依存性を調べた。 gcは、便宜的にtIが10分を超えた時の剪断速度gとした。trは、開発したレオオプティクスシステムを用いて、剪断流を停止してから光の散乱強度が1/eとなる時間とした。 分子量を変えた3種類のPCと3種類のPAによるDiPIC計9種類のgcとtrを測定した。この結果、PCの分子量を固定してPAの分子量を高くするとgcは単調減少、trは単調増加することが分かった。一方で、PAの分子量を固定してPCの分子量を高くすると、gcは上に凸でtrは下に凸の関数となった。PCの分子量を高くすることはモル数が減ることから、形成されたネットワークにおいてPAは応力鎖、PCは架橋材の役割を果たすと推察できる。 DiPICのダイナミクスを表すため、低粘度、PCとPAの乖離、ゲルの3状態を遷移するモデル反応速度式を構築した。この式を解くと、(1)gがgcに近づくとtIは対数発散する(2)低粘度状態に戻る時には長短2つの緩和時間がある(3)gcの解析解などの結果が得られる。また、Flory-Stochmayer理論をランダムポリイオンに拡張した過渡的ネットワーク理論を構築し、gcをポリイオンの濃度や温度の関数として求めた。 反応速度論、過渡的ネットワーク理論間のパラメータ間の整合性を取り、実験結果と比較することで、DiPICのダイラタンシー特性を分子設計によって予測できる可能性が示唆された。
|