研究実績の概要 |
本研究では、東北沖に新たに建設された日本海溝海底地震津波観測網(S-net)を用いて、観測空白域となっていた海域下のスロースリップの状況把握や地震発生過程の理解を目指す。本年度の研究成果としては、東北沖地震の繰り返し地震活動への影響を90年以上の長期の地震カタログおよび、東北沖地震前後約10年のダブル・ディファレンス法を用いた再決定震源データに基づき調べた。その結果、東北沖地震後それまでほとんどプレート境界での地震活動がなかった場所で、東北沖地震後地震活動が開始している場所があることを明らかにした。 (Hatakeyama et al., Journal of Geophysical Research, 2017; 本科研費番号を記して公表)。この結果は、余効すべりによる載荷速度の増加により、それまで地震性すべりをおこさなかった場所が地震性すべりを起こすようになったことを示し、プレート境界での条件付き安定の性質の解明が地震の規模や地震活動の予測にとって重要なことを示す。また、繰り返し地震を用いたすべりレートの推定に関し、時空間のスプライン関数を用いてベイズ的な方法で時空間のすべり分布を推定する方法を検討した。この方法を,東北沖地震前の18年間にプレート境界で発生した繰り返し地震に適用した結果,余効すべりなどのプレート境界での非地震すべりの時空間分布の特徴がよく捉えられること、GPSを用いた固着の推定結果と調和的な結果が得られることがわかった (Nomura et al., Geophysical Journal International, 2017)。これらの地震活動のメカニズムの推定方法や非地震性すべりの推定方法は、日本海溝海底地震津波観測網のデータを用いることにより、さらに小さな地震まで適用することが可能になる。
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