研究実績の概要 |
本研究では、東北沖に新たに建設された日本海溝海底地震津波観測網(S-net)を用いて、観測空白域となっていた海域下のスロースリップの状況把握や地震発生過程の理解を目指す。本年度は、2018年10月にS-netのデータが公開された後、昨年度に作成した、約2年間の連続・イベント波形データベースに基づき、以下のような研究を行なった。プレート境界地震を用いたS波スプリッティング解析では、昨年見出した海溝と平行な速いS波の振動方向について、解釈を行い、上盤地殻の速度異方性によるものと結論づけ、論文を投稿した。また、S-netのセンサーの姿勢の推定に関する共同研究プロジェクトに参加し、センサーの姿勢を推定し、公開した (Takagi et al., SRL, 2019)。これにより、S-netの観測記録を東西・南北・上下成分に分離することができ、今後の研究の発展につながる。また、海底地震計を震源決定に使う際に重要となる海底の堆積層(低速度層)の走時への影響や地震波トモグラフィーに関する共同研究も行なった。また、学部生の卒業研究として、S-net波形について深層学習を用いた地震検知に取り組み、その性能を評価した。そのほか、繰り返し地震を含む東北沖のスロースリップの分布についての研究(Nishikawa et al., Science, 2019)について本科研費番号を記して公表した。 また、S-netを用いない予備解析に関して、房総半島沖のプレート構造(Ito et al., EPS, 2019)、三陸はるか沖での繰り返し地震を用いたスロースリップの検出(Honsho et al., JGR, 2019)を行なったほか、世界の繰り返し地震の抽出の際重要となる、繰り返し地震の抽出基準について整理し出版した(Uchida, PEPS, 2019)。
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