研究課題/領域番号 |
15K05264
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩崎 貴哉 東京大学, 地震研究所, 教授 (70151719)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 波線追跡法 / 地震波干渉法 / プレート境界構造 / AVO法 / 中央構造線 / 地殻構造 / 反射波 |
研究実績の概要 |
本研究で目指すプレート境界構造の定量的推定のために,2006年に実施された紀伊半島東部地震探査測線データに対し,本研究費でこれまでに開発された手法の適用を開始し,同地域のプレート境界の精緻なモデル構築を開始した. (1)反射波振幅を正確に評価し,プレート境界構造を抽出するには,プレート境界より上部の構造を可能な限り精度よく求めなければならない.従来の波線追跡・振幅計算programは,本地域の複雑な構造に追従できなかった.本研究においては,波線計算の高精度化を図るとともに幾何学的減衰計算の高精度化・安定化を実現した.このprogram packageを用いて,プレート境界近傍の反射面について多重反射まで考慮した解析を実施した.その結果,複雑なプレート境界構造のみならず,同地域の主要構造線である中央構造線の深部構造までが明らかになった. (2)本研究で用いた探査データに対し,前年度に行った地震波干渉法による擬似発震記録の生成の試みを進展させた.即ち,擬似発震点に対応する受振点の記録とその他の受振点における記録に関する’Deconvolution’を計算し,震源関数の影響を除去すると共に,擬似震源側のグリーン関数応答による正規化を通じて,広帯域化を試みた. 本解析対象地域は,地表近傍における後方散乱波の減衰度が低く,地震波干渉法に基づく処理は極めて有効であり,擬似発震点から30~40kmの距離まで初動及び後続波と見られる波群を明瞭に確認できた.これらの擬似発震記録に対し,CRS/MDRS Stacking(Common Reflection Surfaces/Multi-dip Reflection Surfaces処理)を適用し,重合後マイグレーション及び深度変換を行って,反射断面を作成した.これまでの結果によれば,MTLの南部に,北傾斜の反射群が明瞭な形で確認できる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)手法の開発と適用:本研究の目的の本研究の大きな目的の一つは, “拡張AVO法”の開発である.本年度は,その基本となるsoftwareの効力を確認するとともに実際のデータ(上述の2006年紀伊半島探査データ)への適用を行った.本研究で開発した波線追・振幅計算programの精度が十分であり,安定性も問題ないことが示された.この適用を通じて,紀伊半島東部かのプレート詳細構造とその上部の中央構造線深部構造が明らかとなった. (2)データ処理:本研究で用いる既往探査データは,ショット数は限られているために実際のimagingにおいて解像度が上がらないことが懸念材料であった.2006年紀伊半島探査データに対して干渉法を用いた擬似ショット記録の作成は,特に基盤が地表付近まで露出している測線南部において特に有効で,擬似ショット記録ながらも地殻内及びプレート境界及び中央構造線,さらにその南に接する三波川帯の構造が明らかとなり,予想以上の有効性を示した. (3)これまで開発したprogram群を統合化した拡張AVO法処理programの開発が遅れている.これは,本年度発生した熊本地震,鳥取県中部地震の緊急観測対応に起因するものである.
|
今後の研究の推進方策 |
(1)手法の開発 拡張AVO開発において,現実に近い構造モデルについての擬似(理論)データを作成し,実際の解析に即した場合についての本方法の有効性と問題点の洗い出しを図る予定である. (2)実データへの適用 既往データへの適用を引き続き実施する.特に,拡張AVO法の適用を試みる.このプロセスで,得られる構造モデルの解像度と信頼性が大幅に向し,プレート境界構造に関する新たな知見を得ることを目指す.
|
次年度使用額が生じた理由 |
変更が生じた理由は,以下の3点である. (1)本研究で想定した役務費及び消耗品の一部が,本研究と関連性の深い他経費(基礎研究費,事業費等)から充当されたこと.(2)既設システムにおいても,処理program等を工夫することによって効率化が実現されたこと.(3)本来,本研究の役務で実施する予定だった実データの処理等を,民間との共同研究の枠組で実施できたこと.
|
次年度使用額の使用計画 |
H29年度は,program開発に関わる物品費(消耗品・software等)と,その成果公表に関わる経費(学会旅費・参加費・論文掲載費)に充当する.
|