研究課題
本研究で目指すプレート境界構造の定量的推定のために,前年度に引き続き,2006年に実施された紀伊半島東部地震探査測線データに対し,本研究費でこれまでに開発された手法の適用を開始し,同地域のプレート境界の精緻なモデル構築を継続して行った.また,2004年の紀伊半島中央部測線についても解析を試みた.(1)反射波振幅を正確に評価し,プレート境界構造を抽出するには,プレート境界より上部の構造を可能な限り精度よく求めなければならない.本研究においては,波線追跡法に基づく波線計算の高精度化を図るとともに幾何学的減衰計算の高精度化・安定化を目指した.しかし,前年度までに開発してきたprogramでは,複雑な層構造を成すモデルの場合に正しく波線を見つけないという問題点が発覚した.この問題の解決には,根幹となるsubroutineに大幅な変更を加える必要があり,修正にかなりの時間を費やした.(2)前年度までに行った2006年データの地震波干渉法による擬似発震記録の生成及びCRS/MDRS Stacking(Common Reflection Surfaces/Multi-dip Reflection Surfaces処理)を適用した反射断面について詳細な検討を行った.また,波線追跡法による波形の再計算を行った.その結果,プレート境界の反射特性は,固着域では単純な低速度層(厚さ<1 km,速度=3.5~5.5 km/s)によって,また定常的すべり域においては,厚さ3-4 kmに分布する反射体群によって特徴づけられることがわかった.また,中央構造線の南側(即ち三波川帯)は厚さ3-5kmの反射群として北傾斜を示し,中央構造線はその反射群の西側最上部に相当する.H29年度新たに実施した2004年の紀伊半島中央部の測線の暫定的な処理結果によれば,三波川帯は上記と類似した特徴を示す.
4: 遅れている
手法の開発と実際に適用するデータに関して問題が見つかり,その対応をおこなった.その為に,進展が遅れている.本研究の目的の本研究の大きな目的の一つは, “拡張AVO法”の開発である.上述のように,本年度は,基礎となる波線追跡programに大きな問題が見つかった.この修正は,波線追跡の根幹部分のsubroutine群が対象となるため,多数のテストケースを設定して入念な作動チェックを行う必要があった.結果としてこの修正と解決に2ヶ月を要してしまった.周波数領域の解析については,観測波形が想像以上に複雑であり,申請時に使用する予定としていた反射波と直達波のスペクトル比データがかなり不安定になる可能性がでてきた.この点に対する詳細な検討を行っている段階で,まだ実際の解析には至っていない.
解析の遅れのために1年の期間延長申請行った.H30年度は,(1)手法の開発 拡張AVO開発において,現実に近い構造モデルについての擬似(理論)データを作成し,実際の解析に即した場合についての本方法の有効性と問題点の洗い出しを図る予定である.(2)実データへの適用 既往データへの適用を引き続き実施する.特に,拡張AVO法の適用を試みる.このプロセスで,得られる構造モデルの解像度と信頼性が大幅に向上し,プレート境界構造に関する新たな知見を得ることを目指す.(3)但し,実データが,当初の予想より複雑で不安定な可能性が高い.従って,当初目指していた周波数領域での振幅解析とともに,時間領域での振幅解析をより進展させた方が得策かもしれない.
次年度以降の使用額が生じた理由:H29年度に直面したprogram開発上の問題点の解決に2ヶ月かかり,結果として研究の進行が大幅に遅れた.その結果,H29年度中に使用予定の消耗品(最終結果backup用電子媒体等)の購入を先送りした.更に,本来本研究の役務で実施する予定だった実データの処理等を,他経費によって実施できた.使用計画:H27年度に実施した干渉法に基づく擬似ショット記録作成が,予想以上の有効性をしめした.H28年度については,計画時に想定した反射法処理において,この干渉法処理の重点化を図った.H29年度については,波形データに対して,時間領域と周波数領域での振幅解析を行う予定であった.しかし,この処理の根幹となる波線プログラムに問題点が見つかり,その修正のために時間を要した.その結果,周波数領域での解析に遅れが出た.H30年度は,program開発と最終結果backupに関わる物品費(消耗品・software等)と,その成果公表に関わる経費(学会旅費・参加費・論文掲載費)に充当する.
すべて 2017
すべて 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)