研究課題
本研究課題では,解析・数値計算・室内実験によってイジェクタカーテンの光散乱モデルを構築することを目的としている.平成27年度の研究実績の概要は以下の通りである.(1)衝突数値計算によるイジェクタカーテンの構造モデル(和田):数値的に40万個程度の粒子を堆積させることで衝突標的をつくり,その標的に弾丸粒子を衝突させることでクレータ形成・イジェクタ放出過程を再現した.結果として,イジェクタカーテンの粒子数密度は根本から先端に行くにしたがって減じることが確かめられた.(2)イジェクタカーテンの光散乱計算(木村,Shalima P.(研究協力者))光子一つ一つの散乱を追跡するモンテカルロ計算によって,解析解に基づく簡単な逆円錐形状の厚さが均一なイジェクタカーテンに太陽光(波長550nmで代表させる)を照射したときの散乱光による輝度を算出した.イジェクタカーテンの光学的厚さ,イジェクタ粒子の散乱位相関数,およびイジェクタカーテンの傾きをパラメータとし,それらの値を様々に変化させることで輝度値がどう変化するかを見た結果,光学的厚さもさることながら,散乱位相関数の寄与が大きく,さらにイジェクタカーテンの傾きが重要であるという傾向が判明した.これはイジェクタカーテンの観測から,粒子径(散乱位相関数)やイジェクタカーテンの形状などを押さえることが可能であることを示唆するものである.(3)室内衝突実験によるイジェクタカーテン輝度の測定(荒川):神戸大学に導入済みの縦型式ガス銃によって弾丸をガラスビーズや自然の砂で構成された標的に衝突させ,衝突クレータおよびイジェクタカーテンを形成し,これに模擬太陽光を光源として照射し,ハイスピードカメラで撮像した.予備的な実験から,標的表面の輝度と比べてイジェクタカーテンの輝度は最大で約1.2倍程度になるという結果が得られた.
2: おおむね順調に進展している
平成27年度の研究により,衝突シミュレーション,イジェクタカーテンの光散乱掲載,衝突室内実験,の各パートにおいておおよその傾向を把握できたと考えられる.この結果をもとに平成28年度以降のより詳細なパラメータスタディを効率よく進めることができると考えられ,研究進捗はおおむね順調であると言える.
平成28年度の研究は衝突シミュレーション,イジェクタカーテンの光散乱掲載,衝突室内実験,の各パートにおいて次のように計画する.(1) 衝突数値計算によるイジェクタカーテンの構造モデル(和田):衝突数値シミュレーションを確たるものにするうえで平成27年度の光散乱計算の予備計算を受けて,より重点的に調べる必要のあるパラメータ(例えば粒子サイズ分布や標的の空隙率の違いによるイジェクタカーテンの幾何形状などが予想される)を中心に,イジェクタカーテンの構造を系統的に調べモデル化する.この結果は室内衝突実験においても検証し,光散乱計算へフィードバックされる.(2) イジェクタカーテンの光散乱計算(木村, Shalima P.(研究協力者)):平成27年度で得られたイジェクタカーテンの構造モデル,具体的にはカーテンの幾何形状や粒子数密度分布,イジェクタカーテンの厚さ分布,といったパラメータを光散乱計算に反映させる.その計算結果は,衝突実験によるイジェクタカーテンの輝度分布と比較することで妥当性を確認していく.また,光散乱計算においては,異なる波長・様々な光散乱物性をもつ粒子(例えば石英や有機物,氷といった物性の粒子)を用いた計算も行い,それら波長や物性の違いがどの程度散乱輝度に寄与するかを明らかにする.(3) 室内衝突実験によるイジェクタカーテン輝度の測定(荒川):イジェクタカーテン構造モデル構築および光散乱計算において取り組まれる各条件を衝突実験においても取り入れ,それらの検証を行っていく.
予定していた出張旅費の支出の必要がなくなったこと,予定より安く旅費が済んだこと,さらに洋書購入費用が為替レートにより予定していた金額より安く済んだこと,が理由である.
出張の予定並びに交通費など不確定要素のあるものを考慮しながら,目的達成のために効率よく使用する計画である.
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 5件)
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