本研究では,系統的に取り扱われる機会の少ない熱伝導率の測定や既存データの活用を通じ,地球熱学の基礎的なデータである地殻熱流量値の拡充に努める.一方,それらでは捉えることのできない広域的な地球内部温度構造に敏感な指標のデータ解析手法の開発・改良を行い,従来には無い多様なデータに基づく地球浅部の温度構造を,高分解能かつグローバルに捉えることを目的とする. 本年度は,熱的物性値のデータ蓄積に向けて,熱伝導率・熱容量および密度の測定を常温・大気圧条件下で行った.測定には,紀伊半島~四国周辺に地下水等観測施設として整備されている [例えば,小泉・他,2009] 16 地点における 162 個のサンプル,および,火山噴火予知連絡会コア解析グループ [2011] による 37 火山の 42 地点における 122 個のサンプルを用いた.様々な形状にあわせて,異なる測定装置を用いて測定したが,物性値の間で優位な関係を得ることができた.また,複数回の坑内温度測定が得られている坑井の温度プロファイルデータを整備し,平衡温度の推定を始めた.これら補正された温度データと熱伝導率の測定値によって,地殻熱流量を新たに求める予定である.さらに,系統的にまとめられていないデータや資料の整理を始めた.これらを元に,地殻熱流量データベースの構築の基本設計を始めた. 一方,直接的な観測量である地殻熱流量の無い場所の情報を補うために,広域的な温度構造を反映していると考えられている磁化層の下限の分布やそれを規定する要因を定量的な解釈を行うために,その解析適用範囲についての予備的な解析に着手した.
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