本研究では,系統的に取り扱われる機会の少ない熱伝導率の測定や既存データの活用を通じ,地球熱学の基礎的なデータである地殻熱流量値の拡充に努める.一方,それらでは捉えることのできない広域的な地球内部温度構造に敏感な指標のデータ解析手法の開発・改良を行い,従来には無い多様なデータに基づく地球浅部の温度構造を,高分解能かつグローバルに捉えることを目的とする. 最終年度である本年度は,地殻熱物性に関わるデータベースの作成・公開に向けて,前年度までの測定値と既存の熱的物性値のコンパイルを精力的に実施し,データベースのプロトタイプを作成した.田中・他 [2004] に比べ,地殻熱流量と地温勾配値のデータ数は日本列島周辺域では 3 割程度増加し,従来系統的にデータベース化されていない熱伝導率に関しても収集されている.これを元に,データベース ” Data for heat flow studies in and around Japan” として公開を準備中である. 一方,直接的な観測量である地殻熱流量の無い場所の情報を補うために,地球熱構造に敏感な地球物理量と考えられている磁気異常データを用いて磁化層のグローバルな分布を求め,それが広域的な温度構造の指標として有用なことを明らかにした.本成果は Tectonics 誌において公表された. これらを相補的に利用することにより,地球浅部の温度不均質構造の理解が進んだと考えられる.
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