本研究の目的は、約3年前に燃料の消耗で観測を終了したNASA水星探査機MESSENGERと「かぐや」、NASA月探査機 LROのデータとを比較して、月と水星の類似点、相違点を明らかにして地球型惑星の起源と進化に制約を得ようとするものである。水星探査機に搭載された分光カメラ、高度計などの観測データは、水星表面全体の観測に成功して、NASA PDSからデジタルデータが公表されている。月探査機「かぐや」はJAXA/ISAS-DARTSから、LROのものはPDSから生データを取得した。米国地質調査所が無償公開している統合解析ソフトウェア ISISを使って画像と分光データに変換・補正しモザイク画を作成した。月・水星表面で最も顕著な地形はクレータで共通に多くの面積を占めている。月・水星が集積後期に小天体の重爆撃を同様に被ってきたことを示している。相異点が顕著な地形の代表は、Rupes(崖)と呼ばれる直線的に延びる崖構造である。IAUに認定されたRupesは、水星表面には31カ所、月表面では11カ所あり、水星に顕著な地形であると言える。長さは同様で200km程度であるが、分布は大きく異なっている。水星ではRupesがいくつかの大円上に分布しているのに対し、月では1カ所AltaiRupeを除き、海の外縁部に存在する。月の1.8倍の密度を持つ水星の地殻がグローバルに固化収縮した時、大円上の弱い部分にRupesが生じた、と推測される。月では地殻中でのマグマの活動が活発で噴出して海を形成した。マグマが外縁部で固化する時に掃き集められて崖が生じた。水星のような全球的な収縮はなく、マグマが地殻内で発生して応力が緩和してしまった、と推測される。密度差が地殻物質の相異を引き起こし、マグマ生成量に大きな違いをもたらしたものと考えられる。高度計データを使って断層崖の段差を計測し、応力ドロップを算出した。
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