研究課題/領域番号 |
15K05282
|
研究機関 | 宮城教育大学 |
研究代表者 |
菅原 敏 宮城教育大学, 教育学部, 教授 (80282151)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 重力分離 / 成層圏 |
研究実績の概要 |
2015年8月に北海道大樹町において新たに気球実験を実施し、これによって得られた大気試料を用いて最新の成層圏大気における重力分離データを取得した。この気球観測は、これまでに長期にわたって国内外において成層圏大気採取の実績があり、過去のデータとの比較により長期の変動を調べることや、緯度による違いを調べることが可能となった。現有の気球搭載型クライオジェニックサンプラーを大型気球によって放球し、気球の上昇・下降時に大気採取を実施した。実験は、JAXA・宇宙科学研究本部大気球実験グループと協力し、北海道大樹町にある大樹航空宇宙実験場において実施した。試料空気の採取は、対流圏界面直上のおよそ14kmから最高到達高度35km付近までを、概ね高度幅2kmごとに区切り、合計11の高度において実施した。試料採取後は、クライオジェニックサンプラーと気球を切り離し、観測器をパラシュートで海上に降下させ、無事にサンプルを回収することができた。採取された大気試料は、連携研究者である産業技術総合研究所・石戸谷に送られ、大気主成分の酸素、窒素、アルゴンの各同位体比と、O2/N2比、Ar/N2比を、超高精度質量分析計を用いて計測された。その後、試料は宮城教育大学、東北大学、東京工業大学に分配され、平均年代を推定するために必要なCO2濃度とSF6濃度、さらに温室効果気体であるCH4、N2Oの濃度や同位体比なども計測された。さらに前年度2月に実施された西部太平洋の赤道において実施された気球実験にも成功しており、そのサンプルの分析によって赤道域の重力分離データを取得できた。これらの結果をもとに、2次元大気化学輸送モデルを用いて重力分離の再現実験を実施した結果、成層圏大気の重力分離に緯度方向の不均一があり、ブリューワ・ドブソン循環にともなう大気輸送過程と緯度に依存した重力分離の強さが関係があることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた新たな気球観測の成功によって、最新の成層圏重力分離データを取得できたことは大きな進展であった。大型の気球実験を用いた成層圏大気サンプリングでは、様々な条件に左右され、当初予定した全ての高度で大気を採取することは難しい。今年度の気球実験では、気球飛翔コントロールの制約上、フライト時間が短縮されたが、サンプリング高度や高度間隔を調整し、予定した全ての高度において十分な量のサンプル採取を実現することができた。一方で、数値計算による重力分離の再現については、一部について計画段階の予想とは異なる結果となった。通常、成層圏大気の数値シミュレーションでは分子拡散のなかの温度拡散が考慮されていないが、観測された重力分離に対して温度拡散が寄与していると考え、新たに温度拡散項を数値シミュレーションに加えた。その計算結果では、重力分離に対する温度拡散の影響は十分に小さいことが示された。このことから、観測された重力分離の緯度分布に対する温度勾配の影響は小さいと考えられ、主に大気輸送過程と重力による拡散によってつくられる構造であることがわかった。この点は数値計算によって新たに判明した点であるので、次年度の研究計画において修正する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、過去の保存空気サンプルの分析を継続しながら、これまでの研究によって得られた重力分離のデータと平均年代やその他の様々な微量成分のデータを活用し、数値モデルを用いて成層圏大気循環の長期変動に着目して研究を推進する。これまでの研究では、成層圏の循環の強さの指標として主に平均年代のみが用いられており、その結果、平均年代の長期変動について、気候モデルによる予測結果と観測結果との間の不一致がクローズアップされてきた。本研究によって、新たに独立な指標である重力分離が導入されることで、数値モデルに対してより強い束縛条件を与える。分子拡散を考慮した数値モデルを用いて、温室効果気体の増加に伴う温暖化シナリオを条件とする数値計算を行い、それに伴う平均子午面循環の強さ、重力分離、および平均年代のそれぞれの長期変化を再現する。計算によって再現された重力分離と平均年代のそれぞれのトレンドが、両者の観測結果と一致するか否かを調べ、数値モデルによって再現された平均子午面循環のトレンドの妥当性を評価する。これによってBrewer-Dobson循環の長期的な盛衰と重力分離の長期的変動の関係を明らかにする。
|