研究課題
北太平洋亜熱帯海面水温前線に着目し,水温前線における大気海洋相互作用の実態とメカニズムの解明を目指して研究を実施した.大気再解析資料の解析および大気大循環モデルによる数値実験を行い,日本の梅雨に先行して現れるプリ梅雨と呼ばれる春季の降水帯に及ぼす水温前線の影響を調べた.水温前線は,大気下層の傾圧性を強化および維持することにより大気擾乱を励起し,さらに,大気擾乱は前線に沿う低気圧性の大気循環を駆動することにより,プリ梅雨の降水帯の強度や分布に影響を及ぼしていることを明らかにした.従来,気象学的観点から研究されてきた梅雨前線に対して,海洋の影響を明らかにした本研究の成果は,梅雨前線の理解を大きく進展させた.衛星観測の海面高度資料を解析し,東部海域の亜熱帯水温前線の南北に局所的な海洋循環が対となって存在することを見つけた.これらの海洋循環は,約5年周期で変動し,南側の海洋循環は海上風によって駆動されていることを指摘した.この海上風の変動は,亜熱帯水温前線に沿って放出される海面熱フラックスとの関連が見られることから,水温前線における大気海洋相互作用が海洋循環の形成と変動に役割を果たしていることが示唆された.最終年度は,西部海域の亜熱帯水温前線上を頻繁に通過する温帯的低気圧に着目し,温帯低気圧に伴う大気海洋相互作用を調べた.衛星観測資料,アルゴフロート観測資料,最新の海洋再解析資料などを統合的に解析し,春季の温帯低気圧が水温前線帯の水温低下を引き起こすこと,さらに水温低下は水温前線を強化し,大気下層の傾圧性を増大させることにより,温帯低気圧の発生と通過を促進させていることを明らかにした.温帯低気圧が海洋に及ぼす影響を調べた研究は非常に少なく,本研究の成果は,大気海洋相互作用の新しい過程を提示した.
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すべて 国際共同研究 (1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)