研究課題/領域番号 |
15K05285
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大東 忠保 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 特任助教 (80464155)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ミリ波帯雲レーダー / 偏波レーダー / 過冷却水滴 / 雲微物理 / 雲粒子センサー / 粒子判別 / 混相雲 |
研究実績の概要 |
本研究で実施する名古屋大学のKa帯雲レーダー(以下、雲レーダー)は、4月より3月中旬まで名古屋大学にて観測を実施した。観測は基本的に12仰角の水平走査と、1仰角の鉛直走査で実施し、水平・垂直両偏波を同時に送信・受信することによって偏波パラメータを取得した。 また、2月から3月に沖縄県恩納村において、雲レーダー観測と比較する予定の雲粒子を直接測定する新しい測器、雲粒子センサー(cloud particle sensor、CPS)のテスト観測をメーカである明星電気の指導のもとに実施した。雲粒子センサーはレーザーを利用して粒径と個数を計測し、偏向度から粒子の球形・非球形を調べることができる気球搭載の測器である。テスト観測時は背の低い雲しか存在せず、液相の粒子のみの観測となった。光を測定する測器のため、日中の観測で雲の無いと思われる部分でノイズらしきものが多く、本観測では観測は夜が最もよいと思われた。日中に実施する場合は、ノイズと信号の判別を、ラジオゾンデのデータ等を使用しながら実施する必要がある。 さらに、ライダー(シーロメータ)を用いた過冷却水滴域の存在域の推定に関して研究を行った。北極域では境界層内で過冷却水滴が観測される混相雲が頻繁に観測されるが、アメリカバローで得られたデータを用いて過冷却水滴域の推定を実施した。過冷却水滴域を通過する場合、Ka帯雲レーダーのレーダー反射強度ではほとんど変化が無いのに対して、シーロメータの後方散乱係数は非常に大きな値に変化し、シーロメータが過冷却水滴域の抽出に非常に有効な測器であることがわかった。一方で、観測範囲のかなり短いライダーよりも、雲レーダーは遠くまで見渡すことができるという優れている点も確認できた。次年度以降、雲レーダーで得られる偏波パラメータの過冷却水滴域存在の検証データとして、ライダー(シーロメータ)の使用も検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ka帯雲レーダー(以下、雲レーダー)は比較的順調に動作して偏波観測によって十分なデータを得ることができた。次年度には、実施予定の雲レーダーの偏波観測と気球搭載測器による同期観測を予定しているが、本年度はこのために気球搭載測器雲粒子センサー(CPS)のテスト観測を予定どおり実施することができた。 当初の予定では、雲レーダーは名古屋大学に設置したままでCPSとの比較観測を実施する予定でいたが、安全面を考慮したことと、移動させて他の研究と共同で実施することで相互に協力できることから、急きょ沖縄の瀬底島に移動させることとなった。移設場所の視察から、借り上げ先との交渉などを実施し、3月中旬に名古屋大学から運び出し3月末に無事現地への移設を完了させた。雲レーダーの(リコールに伴う)修理を移設に伴って実施したため移設後すぐに稼働させることはできなかったが、電気の開通、ネットワークの準備等も完了させ、次年度の準備は整った。 また、当初、過冷却水滴域の存在の確認のために、気球搭載測器を用いた直接観測のみを実施する予定でいた。しかしながら、気球搭載測器は数も限られ検証データが限定されるおそれがあることから、リモートセンシング測器であるライダー(シーロメータ)による検証が可能かどうかを予定外に検討した。北極域混相雲のデータの解析の結果、非常に有効な測器であるという感触を得ることができた。 全体としては、雲レーダーの解析はやや遅れているものの、このように予定外に研究が進んだ部分もあり、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は沖縄本島の本部半島のすぐ西に位置する瀬底島に設置したKa帯雲レーダー(以下、雲レーダー)による偏波観測を4月下旬より実施する。雲レーダーの観測自体は11月末まで実施する予定をしている。この間の5月から6月にかけて、雲粒子センサー(CPS)を用いた直接観測と雲レーダーとの同期観測を予定している。これらの観測によって得られる同期観測データから、過冷却水滴域の存在域の偏波パラメータの検証データを得る。 前年度の研究において、氷点下のライダー(シーロメーター)の後方散乱係数の大きさから、過冷却水滴域の大きな領域を抽出できることを示すことができた。ライダーによる観測と雲レーダーによる同期観測を実施することによって、過冷却水滴存在域における雲レーダーで得られる偏波パラメータの検証データを得ることができる。CPSをとりつけたゾンデの数には限りがあるため検証データが限られるが、ライダーによる常時観測データが使用できればかなり検証データを増やすことができる。沖縄瀬底島に設置したKa帯雲レーダーの30kmの観測範囲内には、ライダーを設置している研究機関があることがわかったので、データの使用について本年度交渉する予定である。 これらの観測によって得られるKa帯雲レーダーと、直接観測等から得られる過冷却水滴域の比較を実施する予定である。
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