研究課題/領域番号 |
15K05288
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
岩山 隆寛 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (10284598)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | エネルギースペクトル / Nastrom-Gageスペクトル / 地衡流乱流 / Danilovの不等式 |
研究実績の概要 |
地球大気の観測やシミュレーションで知られている,中規模から大規模なエネルギースペクトル, いわゆるNastrom-Gageスペクトルに関する, 理論的, 数値実験的研究を行った. 特にNastrom-Gageスペクトルの形成過程を準地衡2層モデルによって説明した Tung and Orland のメカニズムの成否について詳しく議論した. Tung and Orlandメカニズムは,変形半径に対応する波数帯域から高波数へ向けてのエネルギーフラックスが存在し, それがエンストロフィーフラックスよりも卓越する波数帯域でエネルギー慣性領域を形成する, というものである. エネルギーフラックスのエンストロフィーフラックスに対する卓越性は,Danilovの不等式と呼ばれるものによって特徴づけることができる. 一般化された2次元乱流ではDanilovの不等式は負符号であることが数学的に証明されている. しかしながら,Tung and Orland は準地衡2層乱流ではDanilovの不等式は正になりえることを主張している.そこでDanilovの不等式が正符号になりえる条件の下で詳細な数値実験を行うことにより,実際にDanilovの不等式が正符号になること,そのような波数領域でエネルギー慣性領域が形成されるか否かを調べた. Danilovの不等式が正符号になる可能性があるのは,上下で非対称な粘性を課した場合とEkman減衰を課した場合である.本年度は上下非対称な粘性の影響を調べた.その結果,Danilovの不等式が正になる例は得られなかった.このことはTung and Orlandが提唱したNastrom-Gageスペクトルの形成過程のメカニズムは普遍的ではないことを示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は,2次元乱流や地衡流乱流に関する完結近似方程式を構築することである.しかしながら準地衡流乱流に関しては,準地衡2層モデルにおいてすら波数空間内の振る舞いが未だ十分に理解されていない.この系の乱流研究は1980年前半のSalmonの研究以降あまり進展していないのが現状である.そこで完結近似方程式を作る前段階として,波数空間内の準地衡流乱流の性質を理解することから始める必要がある.そのためエネルギースペクトルの形成過程に関する数値実験的研究を行い,方程式の各項が波数空間内にエネルギーをどのように分配しているかなどの解析を行った.
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今後の研究の推進方策 |
波数空間内のエネルギーとエンストロフィーの流れに関して, Danilovの不等式が重要であることが最近になって認識されてきた.この不等式は,一般化された2次元乱流では負定値であることが数学的に証明されているが,準地衡2層モデルでは,Ekman減衰や上下層で非対称な粘性を課したときに正符号になる可能性が指摘されている.前年度の研究では,Danilovの不等式への上下層で非対称な粘性に対する影響を調べた.今後はEkman減衰の効果を同様に調べていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
隔年ごとに開催される理論応用力学講演会において研究発表を計画していたが、講演会が開催されなかった。そのため講演会に参加するための旅費、講演登録料、紀要論文投稿料が使用せずに余った。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額を使って助成初年度に購入したネットワークハードディスクの交換用ハードディスクを購入する予定である。ハードディスク故障時、研究の進行が妨げられないようにすぐさま交換できるようにするためである。
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