沿岸域は高い生産性を有する海域であると同時に、経済活動と深く係わる重要な海域である。しかし、沿岸域は物理的、化学的、生物学的にも時空間変動が大きく、その全体像を捉えるのは困難である。この問題を解決する一つの方法として、衛星や飛行機を用いた、海色リモートセンシングによる環境把握が考えられる。しかし、衛星搭載海色センサは、沿岸域の空間スケールに比べ、空間分解能が低い。一方、飛行機観測の場合、高い空位間分解能は確保できるが、観測システム導入に難があるため、研究目的での観測に止まっている。この中にあって、小型かつ低価格であるドローンは、制御技術の進歩により比較的安全な運行が可能であり、多くの分野で導入が進んでいる。その機動性、運用コストを考えると沿岸域における海色観測法としては、大変魅力的なシステムである。しかし、その積載重可能量(ペイロード)は 最大でも5~6 Kgと大きな制約がある。これらの観点に立ち、ドローン搭載を念頭に置いた小型・軽量の多波長イメージ分光放射計の開発を行った(2016年のリモートセンシング学会誌に発表)。 沿岸域の海色データから情報を精度高く情報を抽出するには沿岸水の光後方散乱係数の波長特性に関する基礎データの有無が重要になる。このため、ドイツの研究機関と共同で開発した新しい測定原理に基づく沿岸用光散乱関数計を用い、植物プランクトンによる散乱関数を測定、解析し、精度高く後方散乱係数を推定できる方法を提案した(2015年の国際学会誌Applied Opticsに発表)。我々が提案した方法の検証が各国で既に進められている。また、海色データ解析アルゴリズムの開発を行う上で重要な、植物プランクトン相の違いによる海色への影響を評価するのに必須の単位クロロフィルa濃度に対する体積散乱関数を世界で初めて決定した(2017年の国際学会誌Optics Expressに発表)。
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