研究課題/領域番号 |
15K05292
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研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
和田 章義 気象庁気象研究所, 台風研究部, 主任研究官 (20354475)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 非静力学大気波浪結合モデル / 台風 / 数値シミュレーション / アンサンブル実験 / 海洋初期値 / 海水温低下 / 台風内部構造 / 台風強度変化 |
研究実績の概要 |
台風強化停止に重要な役割を果たすプロセスを明らかにするため、非静力学大気波浪海洋結合モデルによる数値シミュレーション研究を実施している。2013年台風第30号と1990年台風第25号の水平解像度2kmでの数値シミュレーション比較実験結果から、台風通過時の海水温低下により台風内部域での強い上昇流域を含む2次循環は弱まり、海洋から大気への熱・水蒸気輸送が減少し、結果として台風中心気圧が高くなること、また中心付近での気圧傾度力が弱くなり、結果として1次循環が弱まることがわかった。しかしながらこの発達抑制プロセスは、台風の強化を停止するわけではなく、その発達率を小さくするに過ぎないことも明らかとなった。台風強化が停止する時には、対流圏下層から中層にかけて外出流が強まり、その結果として2次循環が眼の壁雲域で外側に傾き、眼の壁雲における上昇流が対流圏上層まで到達しなくなった。このことは台風による海水温低下の程度に関係なく、台風の構造変化の帰結として台風発達が停止することを示唆する。 数値シミュレーション実験における海洋初期場の不確実性により、台風強化停止プロセスがどの程度影響を受けるのかを定量的に調べるため、1982-2014年の期間、日ごとの海洋再解析データセットから異なる年・同日のデータを取り出し、33個の海洋初期値を作成し、それぞれについて水平解像度7kmの領域非静力学大気モデルとその波浪海洋結合モデルによりアンサンブルシミュレーション実験を実施した。領域非静力学大気モデルによる結果では、海洋初期値の違いによる台風強度のばらつきを示す中心気圧の標準偏差は、大気波浪海洋結合モデルによる結果よりも大きかった。これは結合モデルは台風直下の海水温を低下させることにより中心気圧の標準偏差を小さくしており、海洋結合プロセスが台風強度や強度変化をある程度コントロールすることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2013年の台風第30号だけでなく、多くの台風事例について非静力学大気波浪海洋結合モデルによる数値シミュレーションが実施できており、Journal of Geophysical Researchに複数の論文が受理されている。また共著論文も順調に発表できており、連携研究者と研究協力者とのコラボレーションは順調である。現在投稿中の論文の改稿が控えており、この論文を完成させることで、本課題はほぼ目的を達成したことになる。
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今後の研究の推進方策 |
現在投稿中の論文の改稿を優先させる。また既に実施した台風数値シミュレーションの解析及び研究を引き続き実施する。数値モデルの力学・物理過程と初期値の不確実性による影響は本課題の当初の目的を超える課題であるものの、今後の研究推進及び台風予測精度の向上にとって重要な課題であるため、今後、研究を継続していくこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
投稿中の論文が査読中であり、2016年度中に投稿料の支払いができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
投稿中の論文は2017年度に受理される見通しであるため、投稿料の支払いは2017年度中に実施できる見込みである。
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