研究課題
計算機更新に伴う、データ同化システムの大規模な移植作業を行い、データ同化実験を再開した。また風ライダーシミュレーターISOSIMの改良や、その入力となるエアロゾルデータの改良も行った。具体的には、前者はエアロゾルの光学パラメータを見直したり、雲氷による散乱の効果を導入した。後者は、全球エアロゾルモデルを改良し、海塩やダストの扱いを精緻化した。これらの改良により、対流圏中層でエアロゾルによる散乱が過大である問題が若干緩和され、衛星搭載の雲・エアロゾルライダー(CALIPSO/CALIOP)との整合性も若干ながら向上した。したがって、この改良したISOSIMとエアロゾルデータセットを用いてシミュレーション計算した(疑似)風データを、現時点での標準データとして、同化実験や論文執筆を行うこととした。ここではある一か月間(2010年8月)に対して、極軌道衛星・低傾斜角衛星に搭載することを想定して計算を行っている。この標準データセットを同化して、いくつかの同化実験を行った。同化システムにおけるパラメータ調整(観測誤差など)は十分ではないものの、現状でも数値予報精度の改善(予報初期の風の場や台風進路予報の改善)が確認できた。特に低緯度を集中的に観測する、低傾斜角軌道を想定した同化実験結果の方が、改善の程度が大きい。これは中高緯度における風の情報は、気温観測など現状の観測網からある程度推定できるのに対して、低緯度は風の直接的な観測によってのみ風情報が得られるためと考えている。また、ISOSIMの計算結果や、OSSE構築時の初期の結果を用いて、衛星搭載風ライダー研究全体を俯瞰したレター論文を査読付き雑誌に投稿し、1月に受理された。
2: おおむね順調に進展している
気象研究所のスーパーコンピューターの更新に伴い、データ同化システムの移植作業を行う必要があったが、当初の見込みより機種依存性などの問題により時間がとられた。しかし年度後半に移植作業が終了したのちは、順調にデータ同化実験を再開でき、当初予定していた結果も得られつつある。
ISOSIMによるシミュレーションは、独立した観測結果と比べると依然違いがみられるので、入力となるエアロゾル分布と合わせて、検証・改良を進める。また誤差特性はデータ同化システムにとって有効な情報となるので、この推定精度も向上させる。データ同化は、観測誤差などのパラメータ設定に改善の余地があるので、調整を行う。また台風の進路予報の改善がどのようなメカニズムでもたらされたのか、あるいは、大西洋やインド用などの台風以外の熱帯低気圧の予報精度がどう変化したのかを調べる。シミュレーション及びデータ同化の両方において、現時点では2010年8月の一か月のデータを対象としている。異なる季節における計算結果の違いを検証し、精度調査結果の頑健性を確認するため、2010年1月を対象とした処理も行う。
当初予定していた出張が他の出張と重なり、参加を中止したため。また大規模保存装置が、当初の見積もりより安価で購入できたため。
最終年度に予定している論文投稿や英文校正を、前倒しして次年度に実施することを計画している。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件)
SOLA
巻: 12 ページ: 55-59
10.2151/sola.2016-012