研究課題
データ同化による大気組成濃度・排出量の推定精度に対して同化手法・衛星データの選択・取り扱いのみならず、予報モデルの性能が影響を及ぼす。本研究では異なるモデルに実装可能な最先端のデータ同化スキームを3つの化学輸送モデルに適用し、予報モデル性能が大気組成データ同化解析に及ぼす影響を明らかにすることを目的としている。この目的を達成するために、本年度は以下の研究に取り組んだ。複数の化学輸送モデルに同一のデータ同化スキームを導入する作業を進めた。前年度までにCHASERおよびMIROC-Chemへの導入を完了していたが、本年度は3つ目のCTMとなるGEOS-Chemに対する導入を完了した。将来4次元変分法によるデータ同化結果との比較を可能とするために、最新のアジョイントモデルベースのモデルバージョンを予報モデルとして採用し、空間分解能4x5度で、データ同化を行わないモデル予報結果、データ同化を行なった解析値についてオゾンの3次元分布を独立観測データを用いて検証した。また、各種データ同化統計値も詳しく調査し、性能の評価と改善を繰り返した。モデルの最適化についてはモデル開発元である米国研究機関(ハーバード大学およびNASA JPL)と情報交換し効果的に作業を進めることができた。同時に、データ同化の性能を見直し改善するために、衛星リトリーバルを開発している米国研究機関(NASA JPL)の研究者と連携して、対流圏オゾンプロファイルを改善するためのアルゴリズムの開発と検証に共同で取り組んだ。
2: おおむね順調に進展している
当初計画通り、これまでに、(1)データ同化スキームの高度化を実現し、(2)解析化学種の拡張に向けた考察を実施し、さらに本年度は、(3)3つの化学輸送モデルに同一のデータ同化スキームを導入する作業を完了した。これらの作業を進めるとともに、衛星リトリーバル開発機関と共同で対流圏オゾンプロファイル推定の改善に向けた議論と新たな情報処理技術の導入を終えており、全体として研究は概ね順調に進んでいる。
これまでに同一データ同化モジュールを3つの異なる化学輸送モデルに適用して開発したデータ同化システムを用いて、対流圏の大気物質について過去10年間の長期計算を実施する。再解析計算結果は、衛星・航空機・ゾンデ・地上観測などの各種独立観測データと比較する。その上で、濃度の水平・鉛直分布の季節・経年変動を、全球の地表から下部成層圏について、再現性を比較・検証する。排出量の推定値はボトムアップおよびトップダウンによる先行研究による値と比較し、本研究による変更点を明らかにする。同時に観測網に関する考察に取り組む。既存の観測網による情報は特定の領域・高度で不足している。今後の実施が期待される観測の中でも宇宙ステーションと静止衛星からの観測に着目し、3つの異なるモデルを用いて観測システムシミュレーション実験(OSSE)を実施する。OSSEでは想定される真の大気の状態と解析を比較し、想定した観測が大気環境解析に及ぼす影響を調査する。実験結果をもとに今度の実際の観測計画に活かすべく議論を進める。
スケジュールに変更があり国際学会への参加をとりやめたため
次年度には研究集会および学術誌において成果を多く公表できることを期待できるため、旅費および論文出版代金に使用する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 8件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 7件、 招待講演 4件) 備考 (2件)
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