研究課題
本研究は脈動オーロラの基本的な特性である、準周期的な強度変調と特有な形状の生成要因を解き明かすことを目標としている。この目的を達成するために、脈動オーロラをタイプに分けて精査・比較する手法を用いる。タイプ別けする理由は、同じ脈動オーロラであっても、その生成の物理機構が異なっていることが予測されるからである。平成29年度における本研究は、真夜中過ぎに観測される、東西方向に伸びたオーロラアークが2分~10分程度の周期で極方向に伝搬を繰り返す「Pc5オーロラアーク脈動」に注目して研究を行った。このオーロラの発生領域は、周期10秒前後で明滅を繰り返す、「脈動オーロラ」のすぐ高緯度側である。惑星間空間磁場IMFのBzがネガティブ時に発生する場合が多く、発生領域が赤道方向移動すると周期も短くなる。この特性は「磁力線共鳴」を示唆している。Pc5オーロラ脈動と地磁気脈動とを比較解析したところ、1対1の対応関係になっていなく、地磁気脈動の方がオーロラ脈動よりも長周期であり、波形も不規則で、オーロラ脈動よりも先行している例が多かった。磁気圏赤道面付近に位置しているTHEMIS衛星との同時観測データを比較することができた。磁気圏内では、電磁場の振動波形は規則的で高緯度側ほど周期が長くなる磁力線共鳴の特性を示していた。オーロラ脈動の発生は磁気圏内の磁力線共鳴振動に伴って起こっているが、1対1の対応になっていない場合が多かった。磁気圏内の磁力線共鳴振動の方がオーロラ脈動よりも周期が長く、かつ、時間的に先行して起こっていた。このように、地上と衛星との同時観測から、Pc5オーロラ脈動現象の基本特性の理解が得られた。発生機構は、磁気圏内で起こった磁力線共鳴の電磁波動により直接的に引き起こされる1対1対応ではなく、さらなる「何か他の作用」によりオーロラ粒子が降下したことを示唆していた。
2: おおむね順調に進展している
可能な限り多くのPc5オーロラ脈動イベントを検出するために、北米大陸に配備されているTHEMIS全天カメラ網の2007年1月から2014年12月までの8年分のサマリーデータを解析した。これらのイベントについて観測場所、発生時間、継続時間、特徴等のイベントリストを作成するとともに、オリジナル画像データからビデオを作成し、オーロラの形状と動きのダイナミックを調べた。さらに、地上で同時に観測されたPc5地磁気脈動の解析も行い、両者を比較できるデータセットを作成した。これらのデータからPc5オーロラ脈動現象の特性概要を明らかにすることができた。このPc5オーロラ脈動現象の発生機構の解明には、磁気圏内で観測している衛星データが重要であることから、THEMISプロジェクトの目玉でもある、地上-衛星同時観測イベントの抽出を行った。その結果、10例ほど見いだすことができた。これらのイベントについて、特に現象の振る舞いが明確な4例を選び出して詳細な比較解析を行なった。特に、3機の編隊飛行している衛星間で観測された磁場、電場、速度データ、及び電子フラックス変動の波形、振幅、周期性、位相特性などについて調べた。そして、これらの磁気圏内で観測されたデータの特性と地上で観測されたオーロラ脈動の特性、及び、地上での磁場変動の特性との比較をおこなった。その結果、オーロラ脈動現象は磁気圏内で励起された磁力線共鳴の磁場・電場・速度などに励起に伴って生起しているとの因果関係は明らかになった。しかし、双方の現象について周期が異ったり波形が異なったりしており、単純に1対1の対応づける事が困難である事実が明らかになった。
平成30年度においては、磁気圏の赤道面内付近で観測される磁力線共鳴振動と地上から観測されるオーロラ脈度の繰り返し周期が異なる理由や発生時間差の原因等に注目して研究する予定である。さらにこの現象の本質である、オーロラがPc5の周期で振動する発生機構を明らかにしたい。そのモデルとして、これ迄の先行研究から、以下の2通りが考えられる。第一のモデルは磁場の圧縮性振動による波動ー粒子相互作用によるプラズマシートの高エネルギー電子のピッチ角散乱である。赤道面付近で起こると考えられている。第二のモデルは夕方側で起こる東西オーロラアークの発生機構で同じである、沿磁力線方向の電場によるオーロラ電子を加速するものであり、高度が数千キロから1万キロメートル付近である。実際の現象がどちらの成因で起こされているのかを観測事実から確かめる方法の1つとしては、高度700km付近の軌道であるDMSP衛星で観測された電子フラックスの分布観測データが最も確かである。そのために、DMSP衛星と地上で観測されたPc5オーロラ脈動現象との同時観測データイベントが存在するか否かをまず行う必要がある。さらには、Pc5地磁気脈動現象の発生機構につても探ることも興味深い。これまで提案されている発生機構としては主に3つのモデルがあり、1)太陽風と地球磁気圏との境界面に発生したKH波動が磁気圏内に伝搬して磁力線共鳴を起こす、2)磁気圏内において境界領域間で固有の共鳴を起こす、3)太陽風内にPc5周期の振動が存在しており、それがそのまま磁気圏内に伝搬して起こる。これらのモデルと本研究の現象との関係を太陽風データを用いて検証する。これらを総合的に捉えて、Pc5オーロラ脈動現象の特性とその発生機構を明らかにしたい。得られた成果は国内外の学会やシンポジウム等で発表するとともに、学会誌等にも投稿したい。
1. 生じた理由平成29年度は支払い請求額の80万円使用する計画で進めてきた。ほぼ予定通りに使用できたが残額がでてしまった。2. 次年度使用計画平成30年度は、5月に幕張で開催される日本地球惑星科学連合 (JpGU)と11月に名古屋で開催される地球電磁気・地球惑星圏学会秋期学会に参加して研究成果を発表する計画である。研究成果は学会誌に投稿する予定であり、英文校正費用と投稿経費が必要になる。データベースとデータ解析用の外部メモリーとソフトウェアも整備する計画である。
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Journal of Geophysical Research: Space Physics
巻: 123 ページ: 1-12
10.1002/ 2017JA024272., 2018
Earth, Planets and Space
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