磁気圏編隊観測を用いた三次元磁気リコネクションの研究

2015 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 15K05306
• 研究機関: 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
• 研究代表者: 長谷川 洋 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 助教 (50435799)
• 研究期間 (年度): 2015-04-01 – 2018-03-31
• キーワード: 磁気リコネクション / 編隊衛星観測 / 磁気フラックスロープ / 磁気圏界面 / 電子電磁流体 / 電子拡散領域

研究実績の概要

平成２７年度は、磁気リコネクションのエンジン部分である電子拡散領域とその周辺の二次元磁場・速度場構造を、一衛星観測から再現するためのデータ解析手法を開発し、磁気リコネクションの二次元粒子シミュレーションを用いて試験した。その結果、磁場と電子モーメントの観測データを用いて、運動論的磁気リコネクションの特徴的な磁場構造であるXタイプの磁力線形状と四重極型のホール磁場や、電子流体が電子拡散領域に向かって流れ、そこから電子のアルヴェン速度に匹敵する高速で出ていく様子を、二次元マップとして再現できることを確認した。2015年3月に打上げられた米国のMagnetospheric Multiscale（MMS）衛星によって取得される、高時間分解能の電子観測に適用することにより、電子拡散領域の場所と形状や大きさ、三次元性の度合いを推定する事が可能になる。また、磁気リコネクションの効率、つまり磁場のトポロジー変換が起こって磁束が輸送される速度を推定できる。
開発した手法は、電子の電磁流体方程式系に基づいており、反平行磁気リコネクションの電子拡散領域に適用できるので、磁気圏尾部で発生する磁気リコネクションの解析に利用することができる。また、高確度観測が難しい電場のデータを必要としないため、適用できる観測データに対する制約が大きくないのが重要な点である。
さらに、ジオテイル衛星とMMS衛星による、異なる緯度・経度での昼側磁気圏界面の同時観測イベントを解析し、太陽風磁場が南向きの時に発生する磁気リコネクションの四次元時空間における特性を調べた。結果として、磁気リコネクションライン（X-line）が約10倍地球半径の長さとなりうること、磁気リコネクションが数時間にわたって継続すること、磁気リコネクションジェットの境界面法線方向の厚みがX-lineからの距離とともに大きくなること等を明らかにした。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

磁気リコネクションの鍵領域である電子拡散領域の二次元構造を、その場観測から再現するデータ解析手法の開発や試験がほぼ終了した。電子の電磁流体方程式系に基づいて、電子慣性効果が無視できる場合の数値コードと、電子慣性効果が有限の場合の数値コードを開発し、磁気リコネクションの二次元粒子シミュレーション結果を用いて、電子拡散領域再現法の試験を行った。その結果、電子慣性効果がある場合の数値コードは、支配方程式の解に特異点が発生しやすく、数値誤差が大きくなるため、現段階では実用には耐えないことが分かった。また、反平行磁気リコネクションとリコネクションラインに平行な磁場成分（ガイド磁場）がある場合の成分リコネクションのそれぞれについて、再現コードを開発した。ガイド磁場がある場合には、電子拡散領域における散逸項が複雑化し、数値誤差が大きくなるため、現段階では実用に耐えないことが分かった。
一方で、比較的単純な、電子慣性効果が無視できる条件下での反平行磁気リコネクション用に開発された再現コードが、電子慣性がある状況やガイド磁場が小さい状況にも、ある程度適用可能であることが判明し、実用に耐えうるものであることを確認した。さらに、実際にMMS衛星によって電子拡散領域近傍で取得された観測データに適用することによって、もっともらしい磁気リコネクションの二次元構造が再現できることを明らかにした。再現法が実際の観測に適用できることを示すことができただけでなく、MMS衛星が間違いなく電子拡散領域の近傍を通過したということを検証できたという点で、意義のある研究の進捗である。以上の理由により、研究の目的はおおむね順調に進展していると言える。

今後の研究の推進方策

MMS衛星搭載の観測器は、ほぼすべてが正常に機能しており、2016年3月からは科学的な解析に使用可能なLevel-2データが順次公開されている。したがって本研究課題の遂行に必要な観測データは問題なく取得できているとともに、今後も取得できる見込みである。年に二回ほど開催されているMMSミッションのサイエンスチーム会議や米国地球物理学連合と同時期に開催される会合などに定期的に出席し、情報交換を行うとともに、本研究課題の遂行に必要な打合せや議論を行う。MMS衛星は、2016年度中までは昼側磁気圏界面の観測を重点的に行う予定であり、2017年度以降には、磁気圏尾部における磁気リコネクションや関連現象の観測に集中する。本研究も、その観測フェーズに沿って推進する。
今後は、三次元磁気リコネクションの鍵領域である磁気ヌル点やセパレータを同定するための解析手法の開発を行い、その実際の観測データへの適用により、科学的に意味のある情報を抽出していく必要がある。これについては筑波大学の蔡准教授らとの共同研究により推進していく予定である。また、電子拡散領域の二次元構造だけでなく、三次元構造を再現するためのデータ解析手法も開発していく必要があると考えているが、これについてはまだ具体的な形となったアイデアがなく、米国ダートマス大学のSonnerup教授やDenton教授と、今後も検討を継続してゆく。一方、27年度に開発した二次元構造再現法についても、さらなる試験を行っていく必要がある。現段階のコードは原則として、密度や温度の空間的不連続がない対称電流層にのみ適用できるものであるので、磁気圏界面で発生するような非対称磁気リコネクションにも適用可能かどうか確認する必要がある。この試験のためには、粒子シミュレーションの専門家であるオーストリア宇宙科学研究所の中村琢磨氏の協力を求める予定である。

次年度使用額が生じた理由

次年度使用額はわずかであり、これは物品費が予定より低くおさえられたからである。

次年度使用額の使用計画

次年度使用額は次年度の旅費等に使用する。

研究成果

• [国際共同研究] Dartmouth College/NASA Goddard Space Flight Center/University of California, Berkeley(米国)
  • 国名: 米国
  • 外国機関名: Dartmouth College/NASA Goddard Space Flight Center/University of California, Berkeley
  • 他の機関数: 7
• [国際共同研究] Space Research Institute(オーストリア)
  • 国名: オーストリア
  • 外国機関名: Space Research Institute
• [国際共同研究] Universite de Toulouse/CNRS/LATMOS - UVSQ - CNRS(フランス)
  • 国名: フランス
  • 外国機関名: Universite de Toulouse/CNRS/LATMOS - UVSQ - CNRS
• [国際共同研究] University of Bergen(ノルウェー)
  • 国名: ノルウェー
  • 外国機関名: University of Bergen
• [国際共同研究] Belgian Institute of Space Aeronomy(ベルギー)
  • 国名: ベルギー
  • 外国機関名: Belgian Institute of Space Aeronomy
• [国際共同研究]
  • 他の国数: 1
• [雑誌論文] Dawn-dusk asymmetries at the terrestrial magnetopause: Observations (2016)
  • 著者名/発表者名: Haaland, S., H. Hasegawa, J. DeKeyser, and L. Maes
  • 雑誌名: Geophysical Monograph Ser. 巻: N/A ページ: N/A
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] Spatial dimensions of the electron diffusion region in anti-parallel magnetic reconnection (2016)
  • 著者名/発表者名: Nakamura, T. K. M., R. Nakamura, and H. Haseagwa
  • 雑誌名: Ann. Geophys. 巻: 34 ページ: 357-367
  • DOI: 10.5194/angeo-34-357-2016
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [学会発表] Structure of Earth’s magnetopause during quasi-continuous extended magnetic reconnection: Geotail and MMS conjunction (2016)
  • 著者名/発表者名: Hasegawa, H., N. Kitamura, Y. Saito, I. Shinohara, S. Yokota, T. Nagai, S. Zenitani, and the MMS team
  • 学会等名: Future perspectives of researches in space physics
  • 発表場所: Nagoya
  • 年月日: 2016-03-22 – 2016-03-25
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] Nearly simultaneous observations of southward reconnection jet at the magnetopause by Geotail and MMS under southward IMF conditions (2016)
  • 著者名/発表者名: Kitamura, N., H. Hasegawa, Y. Saito, I. Shinohara, S. Yokota, T. Nagai, and the MMS team
  • 学会等名: Future perspectives of researches in space physics
  • 発表場所: Nagoya
  • 年月日: 2016-03-22 – 2016-03-25
  • 国際学会
• [学会発表] MMS and EISCAT observations of dayside ionospheric flow bursts (2016)
  • 著者名/発表者名: Ieda, A., Y. Ogawa, S. Oyama, N. Kitamura, Y. Saito, H. Hasegawa, S. Taguchi, T. Hori, and the MMS team
  • 学会等名: Future perspectives of researches in space physics
  • 発表場所: Nagoya
  • 年月日: 2016-03-22 – 2016-03-25
  • 国際学会
• [学会発表] Structure of magnetic reconnection jets at the Earth’s dayside magnetopause: Geotail and MMS simultaneous observations (2016)
  • 著者名/発表者名: H. Hasegawa, N. Kitamura, Y. Saito, I. Shinohara, S. Yokota, T. Nagai, C. J. Pollock, B. Giles, J. Dorelli, D. J. Gershman, L. Avanov, S. Kreisler, M. Chandler, V. Coffey, J. Burch, R. Torbert, T. E. Moore, C. T. Russell, R. J. Strangeway, G. Le, M. Oka, T. D. Phan, S. Zenitani, and M. Hesse
  • 学会等名: The US-Japan Workshop on Magnetic Reconnection (MR2016)
  • 発表場所: Napa (California)
  • 年月日: 2016-03-07 – 2016-03-11
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] The fine structure of the magnetosheath boundary layer during magnetic reconnection at the Earth’s magnetopause (2016)
  • 著者名/発表者名: B. Lavraud, Y. Vernisse, D. J. Gershman, J. Dorelli, P. Cassak, C. Pollock, B. Giles, N. Aunai, M. Argall, L. Avanov, A. Barrie, J. Burch, M. Chandler, L.-J. Chen, G. Clark, I. Cohen, V. Coffey, J. Dargent, J. Eastwood, S. Eriksson, R. Ergun, C. J. Farrugia, S. A. Fuselier, V. Genot, H. Hasegawa, et al.
  • 学会等名: The US-Japan Workshop on Magnetic Reconnection (MR2016)
  • 発表場所: Napa (California)
  • 年月日: 2016-03-07 – 2016-03-11
  • 国際学会
• [学会発表] Small-scale topological changes associated with magnetic reconnection during Kelvin-Helmholtz instability at the Earth’s Magnetopause (2016)
  • 著者名/発表者名: Y. Vernisse, B. Lavraud, S. Eriksson, D. J. Gershman, J. Dorelli, C. Pollock, B. Giles, N. Aunai, L. Avanov, A. Barrie, J. Burch, M. Chandler, L.-J. Chen, G. Clark, V. Coffey, J. Dargent, F. D. Wilder, R. Ergun, C. J. Farrugia, V. Genot, H. Hasegawa, et al.
  • 学会等名: The US-Japan Workshop on Magnetic Reconnection (MR2016)
  • 発表場所: Napa (California)
  • 年月日: 2016-03-07 – 2016-03-11
  • 国際学会
• [学会発表] Fast Plasma Measurements during Phase 1A of NASA's Magnetic Multiscale Mission: A First Assessment (2016)
  • 著者名/発表者名: B. L. Giles, C. J. Pollock, J. Dorelli, D. J. Gershman, T. E. Moore, L. A. Avanov, A. Barrie, S. Boardsen, J. L. Burch, M. O. Chandler, L.-J.Chen, V. N. Coffey, H. Hasegawa, S. Kreisler, B. Lavraud, W. R. Paterson, T. D. Phan, A. C. Rager, C. T. Russell, Y. Saito, C. Schiff, S. Smith, R. B. Torbert, and A. F. Vinas
  • 学会等名: The US-Japan Workshop on Magnetic Reconnection (MR2016)
  • 発表場所: Napa (California)
  • 年月日: 2016-03-07 – 2016-03-11
  • 国際学会
• [学会発表] Magnetic flux ropes at planetary magnetopauses (2015)
  • 著者名/発表者名: Hasegawa, H.
  • 学会等名: AGU 2015 Fall Meeting
  • 発表場所: San Francisco
  • 年月日: 2015-12-14 – 2015-12-18
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] Kink-mode oscillations of the magnetotail current sheet driven by quasi-continuous reconnection during a steady magnetospheric convection: Geotail and THEMIS conjunction (2015)
  • 著者名/発表者名: Hasegawa, H., I. Shinohara, T. Nagai, M. Hoshino, Y. Saito, V. Angelopoulos, M. Teramoto, and K. Higashimori
  • 学会等名: AGU 2015 Fall Meeting
  • 発表場所: San Francisco
  • 年月日: 2015-12-14 – 2015-12-18
  • 国際学会
• [学会発表] Spatial dimensions of the electron diffusion region of anti-parallel magnetic reconnection (2015)
  • 著者名/発表者名: Nakamura, T. K. M., R. Nakamura, and H. Hasegawa
  • 学会等名: AGU 2015 Fall Meeting
  • 発表場所: San Francisco
  • 年月日: 2015-12-14 – 2015-12-18
  • 国際学会
• [学会発表] Science of MMS, Geotail and multi-spacecraft observations (2015)
  • 著者名/発表者名: Hasegawa, H., Y. Saito, I. Shinohara, N. Kitamura, T. Nagai, S. Zenitani, and the MMS team
  • 学会等名: ISAS workshop on magnetospheric plasmas
  • 発表場所: Tokyo
  • 年月日: 2015-12-01 – 2015-12-03
  • 国際学会
• [学会発表] A review of magnetopause and boundary layer studies in 2013-2015 (2015)
  • 著者名/発表者名: 長谷川 洋
  • 学会等名: 地球電磁気・地球惑星圏学会第138回講演会
  • 発表場所: 東京
  • 年月日: 2015-10-31 – 2015-11-03
• [学会発表] THEMIS衛星による昼側磁気圏境界面における磁束ロープの運動の観測 (2015)
  • 著者名/発表者名: 星 康人，長谷川 洋，北村 成寿，齋藤 義文
  • 学会等名: 地球電磁気・地球惑星圏学会第138回講演会
  • 発表場所: 東京
  • 年月日: 2015-10-31 – 2015-11-03
• [学会発表] What did we learn from Cluster observations at the magnetopause? (2015)
  • 著者名/発表者名: Haaland, S., H. Hasegawa, M. W. Dunlop, R. Fear, B. Walsh, J. DeKeyser, B. U. O. Sonnerup, and G. Paschmann
  • 学会等名: 25th Cluster workshop (Cluster 15th and Double Star 10th anniversary workshop)
  • 発表場所: Venice (Italy)
  • 年月日: 2015-10-12 – 2015-10-16
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] Generation of turbulence in Earth’s magnetosphere (2015)
  • 著者名/発表者名: Hasegawa, H., T. K. M. Nakamura, M. Hoshino, I. Shinohara, and T. Nagai
  • 学会等名: International Workshop and School on solar system plasma turbulence, intermittency and multifractals (STORM 2015)
  • 発表場所: Mamaia (Romania)
  • 年月日: 2015-09-06 – 2015-09-13
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] Identification of 3D vector field features using four satellite data and parallel vector method (2015)
  • 著者名/発表者名: Cai, D., B. Lembege, Hasegawa, H.
  • 学会等名: AOGS 2015
  • 発表場所: Singapore
  • 年月日: 2015-08-02 – 2015-08-07
  • 国際学会
• [学会発表] Reporter review: Magnetopause and boundary layers 2013-2015 (2015)
  • 著者名/発表者名: Hasegawa, H.
  • 学会等名: IUGG 26th General Assembly 2015
  • 発表場所: Prague (Czech Republic)
  • 年月日: 2015-06-22 – 2015-07-02
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] 持続する磁気リコネクションジェットを伴う磁気圏尾部電流層の振動：ジオテイル衛星観測 (2015)
  • 著者名/発表者名: 長谷川 洋，篠原 育，長井 嗣信，斎藤 義文
  • 学会等名: 日本地球惑星科学連合2015年大会
  • 発表場所: 千葉
  • 年月日: 2015-05-24 – 2015-05-28
• [学会発表] Identification of 3D vortex structure using Cluster satellite magnetic field data (2015)
  • 著者名/発表者名: Cai, D. S.，B. Lembege，and H. Hasegawa
  • 学会等名: EGU General Assembly 2015
  • 発表場所: Vienna
  • 年月日: 2015-04-12 – 2015-04-17
  • 国際学会