斑れい岩層上部から枕状溶岩にわたる層準の10箇所から緑泥石岩体を発見した.これらの岩体は数キロメートルごとに出現しており,その最大のものは数百メートルX100メートルにも達している.また,下位の緑泥石岩はほとんど大部分が緑泥石からなるのに対し,シート状岩脈群から溶岩層の上位の緑泥石岩体では石英脈が特徴的に出現する.全岩化学組成による検討から,下位の岩体では,シリカの著しい除去と鉄の付加,また,アルカリ元素やCaなども著しく除去されている.上位の層準においては,そうした特徴に加えて石英が晶出することによってシリカが付加されている.さらに特徴的なこととして,下位の岩体では周囲の母岩を含めて銅が著しく除去されているのに対し,上位の石英脈を伴うような岩体では,局所的に銅が著しく高い値を示していることが明らかとなった.緑泥石岩体の出現は,熱水循環が高度にフォーカスされて生じたことを示している.また,その出現が斑れい岩層の上部から始まっていることは,こうしたフォーカスされた熱水循環が,従来想定されてきた海嶺軸ではなくむしろ海嶺翼部で生じたことを示唆している. また,深部から浅部への緑泥石岩体の変化は,温度の下降による条件変化により,熱水中でのシリカの溶解度の減少に対応していると思われ,熱水循環における空間的変化の実態が明らかになったと考えている. シート状岩脈および下部地殻を構成する斑れい岩に関して,銅の含有量について検討した結果,熱水変質を被っていない岩石では100 ppmを超える高い含有量を示すが,角閃石などが生じている熱水変質を被った岩石ではその含有量がほとんど検出限界以下にまで減少してゆくことが明らかとなった.つまり,熱水循環により斑れい岩層まで銅の溶脱・除去が生じていることを示しており,含銅硫化鉱床の成因には,海洋地殻全体からの銅の溶脱・除去が作用していると考えられる・
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