研究課題/領域番号 |
15K05319
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
太田 亨 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 准教授 (40409610)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 前浜堆積物 / 粒子径状 / 波浪営力 / 楕円フーリエ / 主成分分析 |
研究実績の概要 |
研究2年度目には、前浜堆積物の形状と波浪営力・海岸地形の関係を明らかにするために、以下の3地点より前浜堆積物を追加採取した:宮城県久慈市、静岡県掛川市、佐賀県唐津市。これによって採取した現世の前浜堆積物は、去年度のサンプルと合わせて12地点となった。各地点の波浪強度は、全国港湾海洋波浪情報網の2006年から2013年の2時間毎観測データから求めた有義波高と波浪分散度を利用した。加えて、本年度は銚子層群・宮古層群・久慈層群・日奈久層・川口層(九州黒瀬川帯)の白亜系波浪堆積物を採取した。同時に波浪堆積物のハンモック状斜交層理の波長を測定した。石英粒子形状とハンモック波長の相関関係を検証する予定である。 これらの試料からは、現世の前浜堆積物を利用して、粒子形状と波浪営力の関係性を明らかにして、さらにその結果を白亜系の地質記録に適応を試みた。 中粒サイズの石英粒子を用いて楕円フーリエ-主成分分析をおこなったところ、粒子の全体的な形状を記述する指標(REF1)と、粒子表面の微視的な凹凸を記述する指標が得られた(SEF)。REF1値は低い値であると楕円形、高い値だと円形な粒子であることを示す。SEF値は低いと円摩度が低い粒子、高いと円摩度が高いことを示している。 白亜系の試料については、薄片を作成して石英粒子の形状解析を試みた。解析途中ではあるが、薄片は厚みがある分、写真撮影すると輪郭がぼやけてしまい、粒子形状解析には不向きであることがわかった。今後はSEM-CL像の獲得を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
粒子形状のREF1値は有義波高と弱い相関を示した。すなわち、波浪強度が高いほど前浜の粒子は楕円形から円形に変化することが確認された。しかし、この粒子形状と波浪強度の相関関係は、統計学的検定では有意な差ではなかった。REF1値と波浪強度の関係性を明確にするのには、さらなるデータの追加や、極度に波浪営力の強い、あるいは弱いなどの端成分となる前浜のサンプルが必要である。 粒子形状のSEF値は有義波高と無相関だった。すなわち、波浪強度と粒子の円摩度には関係性がないという結果を得た。この結果は、粒子形状から波浪強度を見積もるという本研究の当初目的に反するが、次の新事実も明らかになった。SEFの値は、釧路・苫小牧などの開けた海岸線で値が高く、唐津・久慈などの閉じた内湾性の海岸線で値が低くなる傾向を示した。今回利用した全国港湾海洋波浪情報網の波浪データは遠洋域に設置されている波浪計から得られたデータであり、地形特性が異なる各沿岸域に到達する実際の波浪とは実情が異なっている可能性が高い。今後は遠洋域における有義波高を波浪の指標とするよりも、吹走距離(fetch)などの地形特性を加味した波浪指標の利用が肝要となる。この方針転換が成功すれば、粒子形状から海岸地形を推察するプロキシの提示が可能となる。 白亜系波浪堆積物への応用につては、解析途中である。薄片写真では、粒子輪郭がぼやけてしまい楕円フーリエ-主成分分析に適した画像の獲得が難しいことが判明した。砂岩粒子への応用については、SEM-CLによる撮影などの画像獲得に一工夫が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
現段階までの解析結果は、粒子形状指標(REF1、SEF)が遠洋域の有義波高よりも、海岸地形によって変化する事を示している。したがって、今後はより閉鎖的な海岸線の砂採取を計画している。例えば、鹿児島県の錦江湾、志布志湾、上甑町の長目の浜などを対象にして、極度に閉じた海岸線を調査の対象に設定する。可能であれば、同様に閉じた海岸として有名な北海道の厚岸湾、風蓮湖、野付湾、サロマ湖の砂のサンプリングも目指す予定である。また、海岸線の閉塞程度につては、波浪吹走可能範囲を測定することによって定量化を試みる。 地質記録への応用については、北九州市の芦屋層群において検証をおこなう予定である。今までの研究結果から、砂岩の石英粒子は続成作用による二次的な成長または溶解が認められ、本来の粒子形状を把握するのに苦慮した。そこで、堆積年代が新しくて続成の影響が少ないであろう芦屋層群を新たな研究対象に設定する。芦屋層群は始新世と漸新世でストーム強度が異なっていた事が知られているので、両者の粒子形状指標を比べることで、本手法が地質記録にも適応可能なのかを検証できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度では、鹿児島県錦江湾、志布志湾、長目の浜の試料採取も予定していたが、他の試料の解析に時間がかかり、調査を決行できなかったために差額が発生したのが主な理由である。また、残額も研究旅費の充填に十分ではなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度では、当初予定の鹿児島県錦江湾、志布志湾、長目の浜の試料採取のための研究旅費に充填する予定である。
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