研究課題/領域番号 |
15K05321
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
林田 明 同志社大学, 理工学部, 教授 (30164974)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 古地磁気永年変化 / 環境磁気学 / 還元的続成作用 / 土壌流出 |
研究実績の概要 |
本研究は,湖沼・内湾堆積物の磁気測定に基づく高精度編年と環境変動の復元を目指すものであり,平成27年度に行った秋田県一ノ目潟のコア試料を用いた古地磁気永年変化の研究,青森県小川原湖のドレッジ試料に認められた続成作用の研究に続き,平成28年度には沖縄県羽地内海と塩屋湾における赤色土壌の流出についての環境磁気学的研究,および大分県別府湾のピストンコア試料を中心とする古地磁気永年変化についての研究を実施した。 沖縄本島の羽地内海と塩屋湾から採取されたコア試料の磁気特性を検討した結果,それぞれのコアの上部で磁性鉱物含有量が増加し,特に最上部では等温残留磁化(IRM)の高保磁力成分(0.3T以上)が卓越することが明らかになった。高保磁力成分の増加は堆積物の色相の彩度(a*,b*)の変化と調和的であることから,IRMの保磁力分布が赤色土壌流入の指標として有効であることが示された。また,羽地内海と塩屋湾の集水域の山地と耕作地から採取した表層土壌について顕微鏡観察を行い,細粒の磁気測定用試料を作成した。その結果,いずれの地点の試料にも高保磁力の磁性鉱物が存在することが確認され,内湾堆積物表層の磁気特性の変化が土壌流出によるものであることを指示する結果となった。 古地磁気永年変化に関しては,一ノ目潟に続き小川原湖と網走湖,羽地内海と塩屋湾のコア試料について検討を行ったが,汽水湖や内湾の堆積物に想定されるとおり,いずれも還元的環境下での続成作用によって磁性鉱物が変質していることが示された。この点を考慮して新しく研究対象に加えた大分県別府湾のピストンコア試料について残留磁化の測定を実施したところ,安定な残留磁化が保持されており,琵琶湖の古地磁気永年変化および西南日本の考古地磁気データに対応する偏角と伏角の変動が検出された。これによって日本列島全域での古地磁気永年変化を統合する見通しが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画した磁気測定は順調に進行した。汽水・内湾堆積物における還元的続成作用やイベント層の存在によって残留磁化の記録が影響を受けていることが判明したが,別府湾のコア試料を研究対象に加えることにより,当初の目的の一つである古地磁気永年変化曲線の確立を達成できる見通しが得られている。
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今後の研究の推進方策 |
古地磁気永年変化の復元に関し,一ノ目潟および別府湾のコア試料から初生磁化と考えられる残留磁化が見いだされたが,これらはUチャネル試料のパススルー測定によって得られたものである。堆積速度の異なる堆積物の間,あるいは考古地磁気の記録との対比を検討するためには,測定データの解析にデコンボリューションの手法を適用することが望まれる。そこで,これまで進めてきた超伝導磁力計の感度曲線の測定やUチャネルとキューブ試料の測定結果の比較等の基礎実験を踏まえ,一ノ目潟と別府湾の残留磁化方位の解析を行う。また,残留磁化を担う磁性鉱物の特定と続成作用の影響の評価を行い,古地球磁場強度変化の推定についてその可能性を検討する。一ノ目潟と同様に,別府湾においても複数コアで残留磁化の測定を行う計画であり,これによって古地磁気永年変化の記録の再現性を確認できる見通しを得ている。これらの結果を踏まえ,堆積物の高精度編年に裏付けられた日本列島の古地磁気永年変化曲線を提示する。 磁気特性に基づく古環境の復元に関しては,汽水湖と内湾の堆積物において続成作用による磁性鉱物の変質の影響が確認されたが,集水域の土壌流出や洪水性砕屑粒子からなるイベント層に対応する磁気特性の変化が保存されていることも明らかになっている。引き続き,高精度編年のデータが存在するコアを中心に,IRMの獲得曲線と他の磁気特性データを組み合わせ,さらに堆積物の顕微鏡観察を行うことにより,砕屑物の供給量あるいは供給源を変化させるイベントの検出を試みる。想定されるイベントはそれぞれの集水域に固有の変化であるが,地域間の対比を通じ,モンスーンの変動や海面変動の影響を反映する磁気特性の変化を読み取れる可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
残金(92円)で購入可能な消耗品で特に必要とするものがなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の消耗品費に加えて有効に使用する。
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