研究課題
本研究は北海道産標本の記載、博物館の標本調査、野外調査の3つが計画されている。平成27年度の研究の概要としては以下が挙げられる。1.北海道勇払郡むかわ町立穂別博物館が所蔵する上部白亜系蝦夷層群産の首長竜部分化石の記載を進めている。まず、研究代表者の手元にある大量の標本写真の電子化を行った。その後、穂別博物館を訪問して標本調査(スケッチ、写真撮影、測定など)やクリーニングの指導を行った。また、カナダ国アルバータ州 Royal Tyrrell Museum of Palaeontology とマニトバ州 Manitoba Museum、アメリカ合衆国テキサス州の Southern Methodist University と Baylor University を訪問し、それぞれの博物館の所蔵する首長竜標本を穂別標本との詳細な比較のために調査した。2.上部白亜系の海生爬虫類化石標本を所蔵する穂別博物館、北海道中川郡中川町エコミュージアム、留萌郡小平町教育委員会、北海道博物館、北海道大学を訪問し、所蔵標本の調査や情報収集を行い、北海道博物館と北海道大学が所蔵する2 標本は詳細な記載に値する標本であることを確認し、記載に必要なデータを取り始めた。また、小平町教育委員会が所蔵する 1 標本の記載論文の第一稿が完成し、共著者と推敲を重ねている。上記1とも関連して、調査対象の標本の一部の個体成長による変異の影響を調べるため、他研究者と共同でCT撮影などの組織学的な検証や他の鰭竜類における個体成長の定量的な分析を行い、学会発表を行った。3.北海道中川郡中川町安平志内川及び留辺蘂川で追加標本と層準の確認を目的に標本調査を行った。また、野外調査前に現地博物館による調査で大量に採集されていた露頭の岩石を調査し、クリーニングの助言や指導を行った。
2: おおむね順調に進展している
本研究は3年計画であり、計画に比べると予定よりも遅れたり前倒しになったりしている調査・作業もあるものの、全体的にみればほぼ順調に進んでいると判断できる。まず、穂別博物館所蔵の2標本(HMG 1 及び HMG 1067、いずれも首長竜の部分骨格)の調査については、当初の計画では HMG 1 の調査を先行して行うことになっていたが、その後の博物館との相談の結果、HMG 1067 の調査を前倒しして行うことになった。そのため、比較標本の調査も HMG 1067 標本に直接関連するものを前倒しにして行ったため、HMG 1 標本に関する調査は予定より遅れている。また、新しく記載の必要性が明らかになった標本の調査に必要な比較標本を所蔵する博物館や、学会との関連で訪問がしやすい標本所蔵機関における調査を前倒しで行った。また、野外調査も地元博物館の協力を得て順調に進められている。研究成果の公表も、予定より遅れているものと早まったものがある。遅れているのは記載に関するもので、これは当初学会発表や論文投稿を予定していた標本についての共著者との議論の詰めが予想より長引いていることが影響している。しかし、拙速な結論を避ける必要があると判断している。また、予想より多くの標本が記載対象になって同時進行になっていることも影響している。一つずつきちんと仕上げて進めるよう、二年度以降は計画的に研究を進める必要があると考える。一方、個体成長による変化については学会発表(研究代表者によるポスター発表1件、共著者による口頭発表2件)は科研費応募後に思いがけないスピードで発展したサイドプロジェクトであった。
今後の研究の推進方策としては、現時点で生じている研究対象標本の優先順位の変更と、初年度の調査で加わった新しい標本の調査などが加わることを鑑みた多少の変更は必要になるものの、基本的には大きな変更はなく、引き続き計画に従って進めていくことなると考える。ただし、今年度に本研究に必要な長期出張の日程を組む上で、勤務先や学会等の業務がかなり影響することが予想される。そのため、関係者との打ち合わせを密にするなど、かなり計画的な対応を心がける必要があると考えている。特に初年度に学会発表などを予定していたのにも関わらず遅れているものについては、作業の優先順位を上げてタイムリーな発表を目指す。なお、計画していた今年度のアメリカ古脊椎動物学会には勤務先の都合で参加が難しいが昨年度に関連課題で発表を済ませているため、今年度は日本古生物学会での発表や論文執筆を優先する。
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