研究課題
本研究は,古第三紀~中新世のアジア産化石哺乳類の新標本の記載と既知標本の系統分類の同定を行い,各分類群の古生物地理とアジア地域の動物相の変化を調べ,汎地球規模の現象とされてきた始新世-漸新世境界の陸棲哺乳動物相交代へのアジア産分類群の寄与を明らかにすることを,目的とする。ヨーロッパの哺乳動物相において認識された始新世-漸新世境界の動物相交代は,アジア系分類群の出現が1つの特徴としてあげられてきたが,それらがアジアでどのように起源したかは検討されてこなかった。また,近年の調査により,ヨーロッパや北米との対比に用いられてきた資料以外にも,アジアには様々な分類群が存在していることや,始新世-漸新世境界以前にも変化が起きていることが指摘され,始新世-漸新世境界の哺乳動物相交代を複数の移住イベントとして検証し直す必要がある。(1)アジアの典型的な化石哺乳類として扱われてきた内蒙古~モンゴル産出標本について正確な系統分類学的な検討を行うため,中国科学院古脊椎動物及古人類研究所とモンゴル科学アカデミーでデータ収集をした。また,これまで発掘調査を行ってきた,ミャンマーとモンゴルで継続的な標本調査を行った。(2)代表者・分担者らが関与してきた発掘調査(モンゴル,ミャンマー,タイ,日本)の標本の記載を進めた。ネコ上科食肉類では,始新世中期東アジア南部に起源した科と北部のみに分布が限られる科と漸新世前の地理的移動に差異が見つかった。日本産偶蹄類の系統分類の検討を行い,産出報告を論文発表した。アジアの漸新世~中新世から産出した哺乳類標本が,ヨーロッパ漸新世から知られる属に含まれるという分類が妥当であるか検討し,学会発表を行った。また,現生種の形態変異から化石の種同定の有効性や生態復元(体重推定)の精度について検討を行い,論文発表した。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は,中国科学院古脊椎動物及古人類研究所とモンゴル科学アカデミーでアジアの典型的な化石哺乳類として扱われてきた内蒙古~モンゴル産出標本についてのデータ収集を行い,予定していた博物館でのデータ収集は順調に遂行できた。また,代表者・分担者らが関与してきた発掘調査(モンゴル,ミャンマー,日本)の標本の調査が進展した。対象とする複数の化石分類群で記載や系統分類の成果をまとめ,海外での学会を含む学会で発表を行い,複数の論文を出版した。
始新世-漸新世境界の哺乳動物相交代のアジア東部での実態を,新標本の産出・記載報告,既存標本の系統分類の再検討,従来の研究では軽視されてきたモンゴル~内蒙古以外の地域の産出情報の考慮,各分類群の地理的・時間的分布の把握にもとづいて,明らかにする。始新世-漸新世境界でヨーロッパや北米に移住し,動物相交代に影響したとされるアジア産分類群の地理的・時間的分布を明らかにし,地理的分布の拡大方向と時期,その起源地を推定する。更に,最終年度(29年度)は,各哺乳類分類群の起源と移住の時期や地域・経路を分類群間で比較し,アジア東部地域およびヨーロッパや北米への哺乳動物相変化に寄与した分類群とその移住の時期や経路または起源地を明らかにする。化石哺乳類の分類は,歯顎部形態にもとづいて行う。博物館で化石の写真撮影,計測,許可される場合はモールド(帰国後,化石模型を作成するための鋳型)の作成を行う。標本を文献やこれまで収集したキャストと比較することで,形態特徴を明らかにし,種の変異の範囲内に入るか検討し,産出報告と新種の場合は記載を行う。海外博物館作業としては,代表者・分担者らが関与してきた発掘調査国(モンゴル,ミャンマー,タイ)で,継続的な調査によるデータ収集を予定している。また,アジア産種のタイプ標本や欧米産種との比較が必要な場合,ヨーロッパとアメリカの博物館で観察を行う。成果は,国内学会(日本古生物学会など),国際学会(古脊椎動物学会など)と論文で発表する。研究組織には,江木(代表者;主に総括,肉食哺乳類),鍔本(分担者;大型哺乳類),西岡(分担者;小型哺乳類と小型偶蹄類)の他に,国内研究者として,連携研究者の冨田幸光(国立科学博物館名誉研究員;兎形類),研究力者の村上達郎(愛媛大学大学院理工学研究科博士課程大学院生;奇蹄類)が加わる。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件) 備考 (2件)
Historical Biology
巻: 28 ページ: 27-34
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