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2016 年度 実施状況報告書

テチス獣類の歯のテクスチャーと安定同位体から見た水中索餌という環境適応戦略

研究課題

研究課題/領域番号 15K05333
研究機関独立行政法人国立科学博物館

研究代表者

甲能 直樹  独立行政法人国立科学博物館, 地学研究部, グループ長 (20250136)

研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2018-03-31
キーワードテチス獣類 / テクスチャー / 索餌戦略 / 安定同位体 / 水生適応
研究実績の概要

本研究は,アフリカ大陸に起源を持つアフリカ獣類のうち,アフリカ大陸北部(古地中海周辺)で進化したとされるテチス獣類(長鼻類や海牛類の仲間)の基幹種として知られていて,これまでのところモロッコの暁新世後期(約6000万~5800万年前)の海成層だけから化石が知られているエリテリウム類について,頬歯歯冠の咬合面の微細表面形態(テクスチャ)の構造を指標に用いて,テチス獣類が初期進化においてどのような索餌行動を取っていたのかを推定すると共に,歯冠エナメルに固定されている炭素と酸素の安定同位体比分析に基づいて彼らの食性と生息地を考察し,テチス獣類の初期進化における索餌適応戦略および環境適応戦略の実体を詳らかにする事を目的としている.
3カ年計画の本研究の2年度(2年目)は,国立科学博物館(以下科博)に所蔵されているエリテリウム8点とフォスファテリウム3点の上顎および下顎頬歯の実物標本を用いて,科博に設置されている走査型共焦点デジタルレーザー顕微鏡(VK-8510)により異なる歯種の歯冠咬合面に見られるテクスチャを観察し,歯種ごとにテクスチャのパターンの差異があるかどうかの検証を行なった.その結果,各歯種のテクスチャ間に有意な相違は認められず,テクスチャ解析を行なうにあたって,どの歯種を用いたとしても歯種間差がない事を確認した.本研究に使用する標本は極めて希少な化石である事から,今後は単離した歯であっても,歯種の別なく標本集団に含めて扱ってよい事が確かめられた.また,新たに追加したエリテリウム2点とフォスファテリウム2点から同位体比分析用試料を採取し,科博に設置されている安定同位体質量分析計(MAT253)を用いて炭素と酸素の安定同位体比の測定を行なった.この測定により,それぞれのタクサの安定同位体比情報はすべて3個体以上となり,標準偏差など基本的な統計量を求める事が可能となった.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究課題においては,成果の要となるモロッコ産の基幹的テチス獣類であるエリテリウムと基幹的長鼻類であるフォスファテリウム(共にテチス獣類)の極めて貴重な実物標本を複数個体分析用に追加する事ができ,平均値や標準偏差など統計学的に必要な3個体以上からの測定結果をすでに確保できている.これらの標本はすでに計測と写真撮影,現状保存のための精密な印象模型の作成を終えており,歯冠エナメル表面のテクスチャ分析のために必要なデジタル3D化も順調に進められている.また,コントロールデータとなる同一産地から採集された陸上食(雑食)の絶滅哺乳類オセペイア(初期の有蹄類)からの同位体分析用試料の採取も完了しており,最終年度にこれらの同位体比分析を行なうと共にテチス獣類の標本点数をさらに追加して同位体分析の結果をより統計学的に優意に扱えるようにすることで,当所の目的を果たす事が充分に可能と考えている.

今後の研究の推進方策

申請者は,本研究においてこれまでのところフランスの2つの自然史博物館(リヨンコンフリュアンス博物館並びにパリ国立自然史博物館)と申請者の所属する国立科学博物館にしか所蔵されていない最初期のテチス獣類エリテリウムおよび最初期の長鼻類フォスファテリウムの実物標本を用いて,走査型共焦点デジタルレーザー顕微鏡を用いた臼歯歯冠エナメルのテクスチャ解析を行なうと共に,同位体質量分析計を用いた炭素と酸素の安定同位体比の分析を行なっている.3カ年計画の本研究における最終年度は,初年度と2年度の結果を最終的な成果として取りまとめると共に,同一個体から採取した試料を用いて表面電離型質量分析装置(TRITON)による微量元素(ストロンチウム)の超精密同位体比分析を行なう事で,海成層からしか産出しない初期テチス獣類(含長鼻類)の索餌の場(水分摂取の場)が陸上(淡水)であったのか水中(淡水)であったのか,さらには海上(塩水)であった可能性があるのかどうか,炭素及び酸素同位体比による結果をより確実なものにしたいと考えている.これらの成果を通じて,全哺乳類の中で唯一テチス獣類だけに暗示される,系統進化過程での陸棲→海棲→淡水棲→再陸棲というだれも想像すらしなかったダイナミックな適応進化の可能性をより詳細に解読したいと考えている.

次年度使用額が生じた理由

炭素と酸素の安定同位体比分析を行なう予定の標本の入手に時間を要し,一部の標本については年度内に行なう予定だった標本の歯冠エナメルの精密な印象模型の作成と同位体比分析用の試料採取を完了することができなかったため,印象材や試料採取用ドリルチップなどの高額消耗品の購入を翌年度に見送る事となった.

次年度使用額の使用計画

本研究において予定していたすべての標本からの試料採取を最終年度の前半ですべて行なって,最終的な同位体分析までをすべて終えられる予定である.したがって,次年度使用額分の予算は,当所の計画に沿って残りの標本の印象模型作成のための印象材と試料採取のためのドリルチップおよび微量元素分析のための硝酸などの高額薬品類の購入に使用する予定である.

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2017 2016

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] 歯のマイクロウェアに基づく採食生態推定法の進展と三次元マイクロウェア形状測定2017

    • 著者名/発表者名
      山田英佑・久保麦野・久保泰・甲能直樹
    • 雑誌名

      日本古生物学会「化石」

      巻: 102 ページ: 印刷中

    • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
  • [学会発表] 臼歯表面の微視的な傷に基づくイノシシ属の食性推定2016

    • 著者名/発表者名
      山田英祐・久保麦野・久保 泰・甲能直樹
    • 学会等名
      日本動物考古学会第4回大会
    • 発表場所
      鳥取市青谷町総合支所(鳥取県鳥取市青谷町)
    • 年月日
      2016-06-18 – 2016-06-19

URL: 

公開日: 2018-01-16  

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