研究課題
本年度は、角レキ化した隕石のうち、普通コンドライト、炭素質コンドライト、ポリミクトユレイライト、アングループ隕石を選択し、これらの隕石中に含まれる各種の角レキ岩片・鉱物片の分析を行った。まず、これらの隕石薄片を光学顕微鏡で観察した後、エレクトロン・マイクロプローブで各種の元素マッピングを行い、特異な角レキ片の捜索を行った。特徴的な角レキ片については構成鉱物の化学組成データを得て、どのような隕石種に属するかを明らかにすることを試みた。エッジワース・カイパーベルト天体(EKBO)起源物質を同定するために、NASAのStardust探査によりサンプルリターンされたWild 2 彗星塵の分析結果を規準として用いたが(Frank et al., 2014)、この範疇に属する角レキ片は今のところ見つかっていない。また、本研究の分析試料のうち、いくつかのものは、NASAジョンソン宇宙センターのMichael Zolensky博士から提供を受けて、共同で研究を行っているが、その中の特に特徴的な試料(塩化ナトリウムを含む普通コンドライト隕石:Zag, Monahansなど)については、SPring-8において放射光X線回折実験を行っている。これらの隕石中には、塩化ナトリウムが含まれているが、我々はさらにこの中に包有物として含まれる固体物質に注目して研究を行っている。さらに、これまで分析した主要構成鉱物はカンラン石であることから、この鉱物の衝撃変成による振る舞いについても詳細な分析を行ってきており、マイクロラマン分光による分析や、放射光X線回折実験による回折点のdiffusivityに注目した分析も行った。カンラン石の衝撃変成については、角レキ化した隕石だけでなく、結晶質のアングライト隕石に見られるカンラン石外来結晶や火星隕石に含まれるカンラン石も比較のために分析を行った。
2: おおむね順調に進展している
おおむね、予定通りに研究は進展しているが、残念ながらこれまでのところ、明らかなEKBO物質は見つかっていない。ただ、これまでにも見つかっていない物質を捜索しているために、簡単に発見できないことは想定内であり、今後も分析試料数を増やして、さらに研究を続けていく予定である。
分析する試料数は膨大な数にのぼるために、効率よく分析を行っていく必要がある。そのためには、共同研究者と密に連絡を取り合い、議論をしながら、研究を進めていく必要がある。今後は、特に炭素質コンドライト、普通コンドライトに絞った形で研究を進めていくことを考えている。特に、昨年度に分析した塩化ナトリウムを含む普通コンドライトは注目すべき試料として捉えている。Zolensky et al. (2015)は、これらの塩化ナトリウムは準惑星Ceresを起源とする可能性を指摘している。Ceresは現在、NASAの探査機Dawnが探査を行っているが、明るい光点が見つかっており、水質変成物や硫酸塩などの存在が議論されている。これらの物質は、CIコンドライトに見られる物質と共通性があり、その関連が議論されている(Zolensky et al. 2016)。Ceresは、直径約950キロメートルもある天体であるが、元々海王星軌道外天体(TNO)として形成され、現在の軌道には形成後に移動して来たという説も提唱されている。このことから、これらの塩化ナトリウムは、EKBO物質に直接対応する物質の可能性もあり、CIコンドライトの分析と合わせてより詳細に進めて行きたいと考えている。
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すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件) 学会発表 (32件) (うち国際学会 22件、 招待講演 1件)
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