地震波は震源断層面の急速な拡大に伴うフラクチャー先端部付近で起こる急速な滑りによって励起される弾性波である。古典的な弾性波動論的扱いと地震波解析にくらべて、地震時の高速、高応力、高歪み速度での断層面上の物質科学的研究は遅れていた。本研究は火薬銃を用いた衝撃圧縮実験によって、鉱物(かんらん石)サンプル中に剪断面(断層面)を人工的に発生させ、生じた剪断面の微細構造を観察することで、急速な滑り運動に伴って起こった物質変化を調べることを主目的として計画された。また筆者らが長年にわたって研究してきたイタリアのバルムチャに産する、かつて地球深部の地震で形成した超塩基性シュードタキライトとの比較研究も合わせ行った。衝撃圧縮実験は熊本大学パルスパワー科学研究所において1段ガンの衝撃圧縮実験は3回、2段ガンの衝撃圧縮実験は2回、計5回の実験を実施した。そのうち回収できた4回のサンプルについて、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡を用いて解析を行った。そのうち剪断面に明瞭な溶融の証拠がみつかったのは現在のところカンラン石単結晶をc軸方向に、30 GPaで衝撃圧縮した1サンプルのみである。ここでは剪断面において最初に粉砕が起こり、その後に結晶粒界で溶融が起こったことが確認できた。圧縮の起こった0.5マイクロ秒という短時間に、結晶の塑性変形、剪断破砕、溶融、そして注入脈の形成という一連のプロセスが起こったことは特筆に値する新知見である。これは地震発生のメカニズムと、シュートタキライトの形成過程の理解に資する重要な研究成果である。この結果を国際雑誌に投稿したが、査読後差し戻された。実験結果の慎重な再検討を行ったのち、大幅改訂し、再度投稿したところである。バルムチアのシュードタキライトについては共同研究者の上田匡将氏を筆頭著者として、これも現在国際雑誌に投稿中である。
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