研究課題/領域番号 |
15K05349
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研究機関 | 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発 |
研究代表者 |
舟越 賢一 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発, 中性子科学センター, 主任研究員 (30344394)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 高温高圧 / 鉄合金融体 / 粘性 / 密度 / 構造 / 落球法 / 放射光 |
研究実績の概要 |
平成29年度では引き続き、鉄合金融体の高温高圧実験の成功において最重要の技術開発課題である高温高圧実験用セル開発と落球マーカーの開発を重点的に行った。 1.高温高圧実験セルの開発: 本研究で行うX線回折測定では1回の測定において数時間以上の計測時間を要するため、高圧下で鉄合金融体を長時間安定に加熱できるヒーターが必要となる。高温高圧実で一般的に使用されているレニウムヒーターでは、5 GPaの高圧で1600℃以上になると加熱が不安定になる問題があった。平成28年度において、我々はチタンシリコンカーバイドをヒーター材に使用した高温高圧実験セルの開発を行い、5 GPaの高圧下で1660℃までの高温状態を安定に保持することに成功した。しかし、チタンシリコンカーバイドはそれ以上の高圧になると相転移が発生して抵抗値の急激な変化が起こるため、安定な加熱を連続的に行うことが難しいことがわかった。そこで別のヒーター材としてアルミナ含有チタンカーバイドを使用した高温高圧試験を行った結果、10 GPa以上の高圧でも相転移は観察されず、1800℃までの加熱に成功した。 2.落球マーカーの開発: これまで落球法実験を行うための鉄合金融体と反応・溶解しないアルミナコーティング落球マーカーの開発を行っており、直径100ミクロンの白金球の表面全体に膜厚2ミクロンのアルミナで覆った落球マーカーの製作と1620℃までの高温保持に成功している。しかし、それ以上の高い温度になると溶解してしまう問題があった。原因として球体表面のアルミナ層が薄くなっている部分が見つかり、ここを起点として溶解した可能性が高いことが分かった。そこで成膜工程の手順を大幅に改良し、アルミナ層を均一にコーティングする技術を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成29年度では、当初予期していなかった落球マーカーの開発と新規ヒーター材の開発を行う必要性が生じ、これらの開発に時間を費やした。加えて研究以外のその他の業務が重複し、予定していた実験を進めることができなかった。 1.落球マーカーの開発: 我々はこれまで鉄合金融体と反応・溶解しないアルミナコーティング落球マーカーの開発を行い、白金球の表面全体に膜厚2ミクロンでアルミナをコーティングした落球マーカーの製作に成功した。今年度からこの落球マーカーを使った落球測定を進め、5 GPaまでの実験を行ったが、加熱途中で落球マーカーが溶解したため、データを取得できなかった。SEM観察による調査を行った結果、アルミナコーティング層が部分的に薄くなっている箇所があり、この部分を起点として溶解が起こった可能性が高いことがわかった。原因は、成膜最中に球体同士が互いに衝突したためと思われる。そこで成膜工程の全面的な見直しを行い、厚みが均一となる成膜法を開発した。さらに工程を繰り返し行う技術も開発し、これまでよりもさらに厚い5ミクロン厚の試験球の製作に成功した。 2.新規ヒーター材の開発: 我々はこれまでチタンシリコンカーバイドのヒーター材を開発し、5 GPaの高圧下で1660℃まで安定に加熱することに成功した。しかし、チタンシリコンカーバイドはそれ以上の高圧になると相転移が発生して抵抗値の急激な変化が起こり、安定な加熱を行うことが難しいことが判明した。このため、当初の計画を変更して他のヒーター材の調査を行ったところ、アルミナ含有チタンカーバイドが高圧下でも安定に加熱できる可能性があることがわかった。そこでアルミナ含有チタンカーバイドをヒーター材に使った高温高圧試験を行った結果、10 GPa以上で1800℃までの加熱に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度では、当初予期していなかった落球マーカーと新規のヒーター材の開発に時間を要し、その後の実験を計画通りに進めることができなかった。平成30年度では、製作に成功した5ミクロン膜厚の落球マーカーとアルミナ含有チタンカーバイドヒーターを用いて鉄合金融体の粘性測定を行う。 鉄合金融体試料を長時間保持できる高温高圧実験用セルの開発は実験成功の鍵であり、最大圧力10 GPa、最大温度1800℃までの実験条件を実現できる高温高圧実験用セルを完成させる。また、これまで製作した落球マーカーは白金球であったが、白金の他にレニウム、モリブデン、タングステンなどの密度の異なる金属球についてのアルミナコーティングを行い、異なる金属球を複数個使った落球測定によって粘性以外に密度の決定を試みる。さらに高温高圧実験用セル、落球マーカーが完成次第、鉄合金融体についてのX線回折実験を開始する。 X線構造解析においては実験データの各種補正の他、構造因子、2体相関関数などを決定する解析ソフトウエアを作製する必要があり、現在プログラムの開発を進めている。ソフトウエア解析によって得られた構造情報と実験で得られた粘性、密度データをコンパイルして高温高圧下における鉄融体の挙動を明らかにし、さらに月の外核における軽元素の効果についての考察を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は当初予期していなかった落球マーカーの開発と新規ヒーター材の開発を行う必要性が生じたため、その後に予定していた高温高圧実験用セルの製作、放射光実験に係る消耗品の購入やSPring-8実験のビームタイム使用料、学会等の旅費を使用するに至らなかった。しかし、アルミナコーティング落球マーカーとアルミナ含有チタンカーバイドヒーターによる高温高圧実験用セル製作に目途が立ったことから、昨年度に執行できなかったSPring-8実験に関わる費用や研究発表の旅費等に使用する。
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