研究課題
本研究はプレート収束域の、沈み込み帯における物質移動の解明を目指し、蛇紋岩メランジ中の構造岩塊の一種、ヒスイ輝石岩を対象として、その生成時において関わった、地下深部の流体の実体を知ることを目的とする。平成29年度迄の研究結果として、日本各地の石英ヒスイ輝石岩およびその曹長岩反応縁、曹長石ヒスイ輝石岩中の流体包有物の内容物、流体包有物の塩濃度の測定結果が得られた。これらの結果の違いが、ヒスイ輝石岩の主な2つの成因(1)流体からの沈殿、(2)元岩の変成・交代作用の違いに結びつくことが明らかになり、ヒスイ輝石岩の2つの成因論を共に説明し得る、新たなモデルを考案した。内容の一部は、Nishiyama et al.(2017)に載せた。具体的には、ヒスイ輝石中の流体包有物が観察しにくいため、塩濃度データが得られていなかった、寄居産及び神居古潭産の石英ヒスイ輝石岩、大屋産曹長石ヒスイ輝石岩の試料について、新たな試料を追加して測定を実施した。実施が遅れていた神居古潭地域(旭川市)及び大屋(養父市)の曹長岩の現地調査と試料収集を実施し、試料処理などを進めてきた。野外調査と試料採取をおこない、室内基礎研究(試料の薄片作製、顕微鏡観察)を進めている。大屋産曹長岩について氷点測定により塩濃度測定を試みた。
4: 遅れている
予定どおりの内容ではないが、野外調査・試料採取及び室内研究で一定の成果が得られた。また、本研究の結果と、従来のヒスイ輝石岩の主な2つの成因とを結びつけた、独自のモデルに関するデータを補充した。これらの結果について、論文化を進めている。天候に恵まれず、実施できなかった中国山地大屋(養父市)や、神居古潭地域(旭川市)での野外調査を実施した。大屋産曹長岩については、流体包有物の大きさが小さく個数が少ないため、分析が困難であった。測定した神居古潭地域(旭川市)の石英ヒスイ輝石岩のヒスイ輝石中には流体包有物が観察されなかった。その後、研究代表者本人の怪我により、長期間、分析用の試料作成作業が不可能となったため、作業を中断している。また、平成29年度迄までに、住民の理解が得られないため調査が困難であり、試料の入手もできなかったため、高知産ヒスイ輝石岩の調査研究を見送った。これについては現在も情報収集中である。
学会発表、論文発表を行う。石英ヒスイ輝石岩と曹長石ヒスイ輝石岩について、ひととおりの結果が得られたので、論文(英文)の執筆を進める。調査や試料入手ができず調査研究を見送った、高知産ヒスイ輝石岩について情報収集する。大屋産曹長岩や神居古潭地域(旭川市)での採集試料の処理・分析作業を継続する。
熊本地震により熊本大学の設備が故障して約1年間使用できなかった。研究代表者が肩部骨折で全治3ヶ月の療養とその後のリハビリを必要とした。流体包有物の産状が複雑で精緻な研究のため当初の想定以上に時間を要した。以上の理由により研究が遅延したため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、主に研究データ補完のための物品費および旅費、学会発表および論文公表のための費用に使用する計画である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件)
Terra Nova
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