研究実績の概要 |
太陽系の形成初期に液体の水が存在した証拠は隕石中に多く見つかっており、様々な手法を用いてこの水の存在時期の推定が行われているが、未だに断片的な情報が集まっているのみである。本研究では隕石中のバリウムの同位体比を精密測定し、消滅核種Cs-135によるBa-135の同位体異常の検出を行い年代測定を試みた。セシウムはアルカリ金属元素であり水に良く溶けて移動するため、太陽系初期の水の存在時期に制約を与えることが可能である。またこの目的のために、ダブルスパイク法を用いて隕石中のバリウムの同位体比を精密に測定する方法を検討した。 精密同位体比測定には国立科学博物館に設置された表面電離型質量分析計Triton plusを用いた。Ndスタンダード溶液では3ppmの同位体比測定精度を達成しているが、Baスタンダード溶液では約10-40ppm(同位体存在度が低いBa-130, Ba-132を除く)の同位体測定精度が得られた。ダブルスパイク法はBaの濃縮安定同位体を2種類組み合わせ未知試料に既知量加えることにより質量分別効果を補正する。主にBa-132とBa-138の組み合わせを使って検討を行った。また、地質調査所の標準岩石試料と普通コンドライトの隕石試料について実試料への適用を検討した。 一方、従来の同位体分析法により炭素質隕石の一種であるTagish Lake隕石のBa同位体測定を行った。酸による段階溶出を行い酸残渣と全岩を含め6つのフラクションを分析したところ、Ba-135およびBa-137に顕著な同位体異常が見られた。これらはs-プロセスで作られた核種であり、プレソーラー粒子によって原始太陽系にもたらされ隕石内に不均質に保持されていると考えられる。また、Cs/Ba比とBa-135の同位体の過剰には関連が見られず、セシウムが初期の水質変成で移動したためと推測される。
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