研究課題
本研究では,レーザーとプラズマの相互作用によるイオンビームの輸送と追加速方法の探索を目的としている。レーザー生成のイオンビームを,粒子線がん治療・材料改変や基礎研究他の実用に供するためには,様々な制御が必要であり,目的に合った粒子エネルギー,エネルギースペクトル,ビーム長,イオンビーム広がりなどの制御の高度化が欠かせない。本研究では,コンピュータシミュレーションにより,このレーザー生成イオンビームの輸送と追加速方法を探索し,近い将来における実用への道につなげることを目指している。本年度は、昨年度から引き続き、まずビームバンチングの制御性を高めるため、複数枚の薄膜ターゲットを配置し、それぞれの薄膜前後に生成される電場を用いることを考えた。レーザーで生成されたイオンビームは、多くの場合、ビームの前方のイオン速度が大きく、後方が遅く、一つのイオンビームバンチ内で、大きな速度さを持つ。したがって、生成されたままのイオンビームを輸送すると、イオンビームは大きく広がってしまう。昨年度はこの速度さを無くすことに成功したが、前方と後方の速度を逆転するまでには至らなかった。今年度は、複数枚の薄膜ターゲットを配置し、1パルスのレーザーが複数枚の薄膜を通過する際に生成される電場を用い、レーザー生成のイオンビームの後方を加速し、前方を減速し、この速度さを逆転することに成功した。速度差が逆転したイオンビームをその後に実際に輸送し、ビームバンチングがうまくなされることが確認できた。さらに、その後、進行方向に縮められたイオンビームを追加速し、イオン(陽子)ビームの平均エネルギーを200MeV以上にすることにも成功した。レーザー生成のイオンビームを制御するための新たな方法を見つけ、提案することができた。現在、バンチングされ、つい加速されたイオンビームの横方向の広がりを抑える方法を模索している。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、昨年度末に見つけた複数の薄膜を用いる方法で、イオンビームのバンチングを制御することに成功した。一つのイオンビームの前方の速度を低めにし、後方のイオン粒子の速度を速くすることができた。こうすることで、イオンビームの輸送後に、ビームの縦方向の長さを短くすることができる。実際に、バンチング後、イオンビームをある程度輸送することで、ビームの進行方向の長さを短くできた。イオンビームの長さが一時的にでも短くできることは、ビーム全体の追加速に好都合である。今年度は、短くなったイオンビームを追加速することにも成功した。粒子線がん治療などに用いる陽子あたりで200MeV程度のエネルギーを得ることもできた。今年度得られた研究成果は、レーザー生成のイオンビームの制御性の向上に大きく貢献するものであり、実用化への飛躍につながる研究成果であると考えている。今年度みつけたこれらの手法は、実際のレーザーイオン加速器において、複数回用いる必要があるものと考えられる。レーザーで生成されたイオンビームをバンチングし、追加速するセクションは、加速器の何箇所かに用い、長距離の輸送とイオン粒子のエネルギーの制御に結びつけるものと考えられる。次年度からは、イオンビームの横方向の広がりを抑えるコリメーションの方法をも確立したい。これらの手法が揃えば、ビームライン上で、何度かビームのバンチングとコリメーション及び追加速を行なって、ビームの質の制御方法を確立したい。近未来の実際のレーザーイオン加速器技術の確立につながるものと期待している。
レーザーで生成されたイオンビームの進行方向の制御に加えて、横方向のビームの広がりを抑えることも重要である。また、イオンビームの縦方向と横方向の制御方法が、各種パラメータ値の変動に対してロバストであることも重要である。次年度は、これらを中心に研究を発展させたい。まず、昨年度見つけたイオンビームのバンチングと追加速は、一つのレーザーパルスと複数の薄膜ターゲットを用いた手法である。 薄膜ターゲットのデブリなどがそのレーザーパルスの伝播に悪影響を起こさないパラメータの範囲を確認したい。さらに、横方向にも拡がろうとするイオンビームを制御するため、薄膜の後方に構造を持たせたターゲットを用いて、横方向のコリメーションに寄与する電場を生成させたい。この電場をイオンの横方向の広がりを抑えるために用いる手法を検討する。この手法は、以前にレーザー生成のイオン源のコリメーションに用いた。しかし、この方法をそのまま用いると、レーザーですでに生成輸送されたイオンビームの横方向の広がりは抑えられるものの、イオンビームが横方向に複数に分割される問題が出る場合がある。この問題の解決にもチャレンジしたい。最終的には、現実的でロバストなレーザーイオン加速器装置を提案したい。モジュールごとに機能を持たせ、それらのモジュールを組み合わせることで、利用目的に応じて制御可能なモジュールベースのシステムを目指したい。
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Journal of Physics: Conference Series
巻: 688 ページ: 012021, pp. 1-5
10. 1088/1742-6596/688/1/012021
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10.1088/1742-6596/688/1/012061
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巻: 58 ページ: 125007
10.1088/0741-3335/58/12/125007