研究課題/領域番号 |
15K05365
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
吉村 信次 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (50311204)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 光渦 / ラゲールガウスビーム / レーザー吸収分光 / 周方向ドップラーシフト |
研究実績の概要 |
本研究は,光渦レーザーを用いたプラズマ粒子の流れ速度計測の原理実証と利用技術の確立を目的としている.今年度は,引き続き核融合科学研究所のHYPER-I装置で生成した電子サイクロトロン共鳴プラズマ中の準安定励起状態のアルゴン中性粒子を対象としてレーザー吸収分光実験を行った.観測される周方向ドップラーシフトは10MHzオーダーの小さなものであるため,正確な周波数基準が不可欠である.そこで,今年度新たに製作した小型RFプラズマ源を用いて飽和吸収分光を同時に行うことでLambディップを観測し,Fabry-Perot干渉計の信号と併せてレーザーの絶対周波数較正を行った.また,空間伝搬に伴うビーム径の広がりを評価した.上記の対策を講じた後に光渦レーザー吸収分光実験を再度行い吸収スペクトルのシフト量を評価したが,結果は依然として理論から予想されるものより2桁大きな値となった.この原因について来年度も引き続き検討する必要があるが,レーザー周波数決定時の誤差によるものではないことが明らかとなった.一方,トポロジカルチャージの大きな光渦を利用することで,理論的なシフト量の増加が見込まれる.高次の光渦では,特異点近傍の位相構造の正確な評価が重要となる.そこで,光渦と平面波の干渉パターンを取得できるように光学系の拡張を行い,得られた干渉パターンに対して空間フーリエ変換を用いることで光渦の位相構造を可視化した.トポロジカルチャージが±1の光渦については一定の位相変化が確認できたが,高次の光渦の場合,特異点の分裂が観測された.高次の光渦をレーザー分光に用いる場合は,特異点近傍の位相構造の高精度化が求められる.これまで,空間光位相変調器(SLM)を用いた光渦生成を行ってきたが,今年度からq-plateを用いた光渦生成を開始した結果,SLMを用いた場合より理想に近いビーム形状が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の周波数シフト計測の課題であった正確な周波数基準については,小型RFプラズマ源を製作し飽和吸収分光を行うことで4MHz以下の精度で絶対周波数を決定できるようになった.レーザーとビームプロファイラをPCによって制御し,小型RFプラズマ源での飽和吸収スペクトルおよびFabry-Perot干渉計の信号と同期してビームプロファイラ画像を取得することで,十分高精度な吸収スペクトルの再構成が可能となった.実験で得られた周方向ドップラーシフトは理論予想より2桁大きなものであったが,これがレーザー周波数決定時の誤差によるものではないことが明らかとなった.また,q-plateによる光渦生成を前倒しで開始し,波長板による偏光およびトポロジカルチャージの符号の制御に成功した.空間光位相変調器を用いた場合と比べて,ビームの強度分布は理想的なラゲールガウスビームに近づいており,吸収分光実験時のビーム位置の安定性が向上した.以上より,研究はおおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で,光渦の周方向ドップラーシフトは理論と定性的に一致しているものの定量的には2桁程度大きなものとなっている.このずれの原因がレーザー周波数決定時の誤差によるものではないことが確認できたため,流速を制御できる粒子群を対象とした実験を行うことで計測結果の較正を試みる計画である.平成28年度より,ルール大学ボーフム(ドイツ)の研究グループと光渦を用いたプラズマ分光に関する国際共同研究を開始した.平成29年度は,ルール大学ボーフム所有のアルゴン準安定原子源を用いた光渦レーザー吸収分光実験を行い,準安定原子の流速を制御しながら吸収スペクトルのシフト量の変化を調べる計画である.本研究の目的の一つである利用技術の確立と関連して,空間光位相変調器とq-plateという二つの方法での光渦生成についてそれぞれの長所・短所を検討し,より使いやすい光渦レーザー吸収分光を用いた流速計測手法を提示したいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は,レーザー周波数較正用の小型RFプラズマ源製作において必要な機材の一部を連携研究者から借用することができたためであり,研究計画の大幅な変更によるものではない.
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次年度使用額の使用計画 |
レーザー周波数較正用の小型RFプラズマ源は完成したため,次年度使用額については光渦レーザー分光実験において必要な光学素子等の消耗品の購入に用いる計画である。
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