本研究は,光渦レーザーを用いたプラズマ中の粒子の流れ速度計測の原理実証と利用技術の確立を目的としている.研究開始当初は,空間光位相変調器(SLM)を用いたホログラム法によって光渦を生成して実験を行ってきた.平成28年度後半からは,より簡便な光渦ビーム生成法として軸方位分割位相差板(q-plate)を利用した平面波光から光渦への変換を採用した.q-plateはSLMより安価であり,使用することでこの技術をより広く使いやすいものにすることができると考えた.光渦のねじれ具合を表すトポロジカルチャージが1と2のq-plateは市販されており,比較的容易に入手できる. q-plateにより生成したトポロジカルチャージ±1の光渦を用いたレーザー吸収分光実験を行った結果,理論から予想される吸収スペクトルのシフトと定性的に一致する結果が得られた.ただし,観測されたシフト量はこれまで同様に理論より2桁大きな値となった.これは周波数決定精度や分解能によるものではなく,他のモードのわずかな混在によって光渦ビームの位相分布が理想的なラゲールガウスモードからずれていることが原因と考えられる.本研究によって,光渦中の原子が感じる周方向ドップラーシフトを実験的に観測することができ,また,光伝搬に伴う高次モードの影響など技術的・原理的な改善点を明らかとすることができた.今後は,本研究をベースとして,光渦レーザー吸収分光から光渦レーザー誘起蛍光法へと発展させる計画である.光渦レーザー誘起蛍光法では,光渦と原子の相互作用の情報は誘起蛍光が運ぶため,不安定な光渦の透過光強度分布を計測する必要がなくなる.また,光路に沿った線積分である吸収分光と異なり,レーザー誘起蛍光法では計測に空間分解能をもたせることができる.本研究を発展的に継続していくことで,光渦を用いたプラズマ計測法の確立が期待される.
|